『ザ・ウォーク』(WOWOW)🤗

The Walk
123分 2015年 アメリカ=トライスター・ピクチャーズ 
日本公開:2016年 ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント

前項のドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』(2008年)で描かれた、1974年のワールド・トレード・センター(WTC)での大道芸人フィリップ・プティによる綱渡りをロバート・ゼメキスが映画化した作品。
2016年暮れに本作を初めてWOWOWで観たとき、映画館で3D版を見ておくべきだった! と激しく後悔している。

劇場公開の封切初日がこの年1月23日とプロ野球のキャンプイン1週間前。
しかも『失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち』(講談社)の入稿と重なっていたため、観に行きそびれてしまったのだ。

それぐらい、この映画の綱渡りのシーンは素晴らしい。
リアルなようでいてファンタジック、ファンタジックなようでいてリアルという、迫真の演出と雰囲気の醸成が実に見事で、ハラハラドキドキしながらも、ディズニーランドのアトラクションみたいな楽しさに溢れている。

開巻、自由の女神像の松明部分に立つ主人公フィリップ(ジョゼフ=ゴードン・レヴィット)が登場。
過去を振り返る形で本筋に入るオープニングは『ベルリン・天使の詩』(1987年)のようで、ファンタジー色の強い映画なのかな、と思わせる。

プティが恋人アニー(シャルロット・ルボン)、親友ジャン=ルイ(クレマン・シボニー)とともに綱渡り実現に向けて動き出すくだりも実に軽快。
このあたりのコメディ・タッチは、フランスの『リオの男』(1964年)、イタリアの『黄金の七人』(1965年)といった快作を彷彿とさせる。

しかし、いざ綱渡りの実行が近づいてくると、この映画はしっかり、生々しく、リアルに「高さ」を伝えてくる。
綱渡りの準備のため、フィリップが110階でエレベーターホールに隠れるシークエンス、ワイヤーを張るために屋上から全裸で身を乗り出す場面など、このあたりから高所恐怖症の気がある僕は動悸が早くなりっぱなし。

この種の映画ではよく「手に汗握る」という表現が使われるが、このへんから綱渡りのクライマックスに至るまで、ぼくの手のひらは本当に汗でびっしょりになってしまった。
WTCよりも高いビルで火災が起こる『タワーリング・インフェルノ』(1974年=実在のフィリップが綱渡りを敢行した年に公開された)でも、これほど「高さの恐怖」は感じなかった。

では、監督のロバート・ゼメキスがリアリティに徹した演出をしているのかというと、決してそうではない。
むしろ、WTCの屋上周辺が雲に覆われるシーン、ワイヤーに寝そべったフィリップの顔の上に海鳥が舞い降りてくるあたりは大変幻想的で、文字通り夢を見ているかのようなムードに引き込まれる。

そうした場面の直後、思わず「危ない!」と悲鳴をあげたくなるようなシーンにつなげたりする。
つまり、現実感と幻想性というまったく異なる要素の出し入れ、演出の緩急のタイミングが抜群なのだ。

実話だからといってリアリズムに徹したら息がつまるばかりだろうし、ファンタジックな雰囲気ばかりを前面に出したらいかにも作り物めいていてシラけてしまう。
その現実と虚構の間でどのような作品世界を創出するかに作り手の手腕が問われるわけで、映画作りの基本を再認識させてくれる作品でもある。

オススメ度は断然A。 

旧サイト:2016年12月27日(火)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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