『ジュディ 虹の彼方に』(WOWOW)🤗

Judy 
118分 2019年 
イギリス、フランス、アメリカ 
20世紀フォックス ロードサイド・アトラクションズ LDエンターテインメント 
日本公開:2020年 ギャガ 

レネー・ゼルウィガーが47歳で亡くなったジュディ・ガーランドの最晩年を熱演し、昨年のアカデミー主演女優賞を受賞した作品。
昨年、劇場公開時に見逃がしてしまい、ゼルウィガー自身が歌っているステージの場面に、ああ、やっぱり映画館で観ておけばよかったと思った。

ジュディが世界的にブレークした『オズの魔法使い』(1939年)は、小学生か中学生のころ、地上波テレビの映画番組で観た記憶がある。
小さな白黒テレビで、歌も日本語に吹き替えられていたから、きちんと鑑賞したとは言えないのだが、それでも往年のハリウッド製ミュージカルらしい華やかな雰囲気は十分に感じ取れた。

のちに映画に詳しくなるにつれて、ジュディが長年アルコールと薬物の依存症に苦しみ、何度も自殺未遂を繰り返していたことを知る。
亡くなる8年前に出演し、アカデミー助演女優賞にノミネートされた『ニュールンベルグ裁判』(1961年)はDVDで鑑賞し、ベテラン女優ならではの演技力に感心させられたが、このころも私生活は荒れ放題だったらしい。

本作は1960年代後半、ジュディが娘ローナ(ベラ・ラムジー)と息子ジョーイ(ルウィン・ロイド)を連れ、ロサンゼルスのクラブのステージ出演で生活費を稼いでいるところから始まる。
高額の借金を抱え、マネージャーを雇う金もなく、宿泊費を滞納していた定宿のホテルからも追い出され、仕方なく駆け込んだのが3番目の夫で、子供ふたりの父親でもあるシドニー・ラフト(ルーファス・シーウェル)の家。

ラフトに親権を譲り渡し、子供たちを家に置いていくよう迫られたジュディは、ステージ衣装のまま、一番上の娘ライザ・ミネリ(ジェマ・リア=デヴェロー)がいるパーティーに飛び込み参加。
ここで5番目の夫となるミッキー・ディーンズ(フィン・ウィットロック)と知り合い、子供たちを取り返す金を稼ぐため、5週間に渡るロンドン公演〈ジュディ・ガーランド・ショー〉に出演することを決意する。

しかし、精神を病んだジュディは公演直前まで不眠症に悩まされ、リハーサルを拒否し、公演初日にも遅刻した上、アシスタントのロザリン・ワイルダー(ジェシー・バックリー)にステージの袖まで連れてこられても「やっぱり歌えない」と首を振る。
この土壇場でジュディが最初の歌『バイ・マイセルフ』を歌い上げるシーンは、いきなりクライマックスに突入したかのような盛り上がり。

やがて、ジュディの不眠症の原因は子役時代にステージママの母親(ナターシャ・パウエル)にアンフェタミンを常用させられていたことにあった、ということがわかってくる。
アンフェタミンは覚醒剤の一種で、当時のハリウッドではダイエット薬品として使われており、太りやすい体質だったジュディは10代から服用を強要され、その副作用で生涯不眠症に苦しめられることになったのだ。

ゼルウィガーはそうしたジュディの心の病をきめ細かく演じながら、同時にジュディの魅力と可愛さをもしっかり表現している。
とりわけ、実際にLGBTQの理解者として知られたジュディが、公演会場の裏口で出待ちしていたゲイのカップル、ダン(アンディ・ナイマン)とスタン(ダニエル・セルケイラ)のアパートで一緒に『ゲット・ハッピー』を歌うくだりが心に沁みる。

しかし、ジュディはその後も公演で何度も遅刻を繰り返し、怒って物を投げつけてきた客を口汚い言葉で罵るなど、トラブルを起こし続けた。
主催者バーナード・デルフォント(マイケル・ガンボン)に謝罪してステージに復帰したと思ったら、今度は酔っ払ってステージに出てきて昏倒。

ディーンズと結婚した矢先に仲違いしてしまう私生活の描写も含めて、これから先、ジュディはいったいどうなってしまうのかと、現実の悲劇的な結末がわかっていてもハラハラしてしまう。
ついにステージから下ろされたガーランドは、それでも最終日に会場やってきて、代役の歌手ロニー・ドネガン(ジョン・ダグリーシュ)に頼み込んでステージに立つ。

このクライマックスで『カム・レイン・オア・カム・シャイン』を熱唱し、『虹の彼方へ』と雪崩れ込む場面では涙を禁じ得ない。
なお、本作の原作はガーランドの評伝やノンフィクションではなく、ある程度フィクション化されたピーター・キルターの戯曲『エンド・オブ・ザ・レインボー』(2005年)。

監督のルパート・グールドは舞台演出家出身のベテランで、がっちりまとめあげられていることも評価しておきたい。
ああ、やっぱり、この映画は劇場で観ておきたかった!

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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