『マン・オン・ワイヤー』(WOWOW)😉

Man on Wire
95分 2008年 イギリス、アメリカ 日本公開:2009年 エスパース・サロウ

前項『フリーソロ』(2018年)を観て、この13年前に公開された〝綱渡りドキュメンタリー〟を思い出した。
1974年8月7日、フランスの大道芸人フィリップ・プティが、当時世界最高の高さを誇った411メートルのワールド・トレード・センター(WTC)の2つのタワーの間で行った綱渡りを描いている。

当然違法行為だったため、プティが警備の目をかいくぐってビル内部に潜入し、最上階まで上ると、2塔のタワーの間にワイヤーを張り、命綱なしで決行している。
最大の見どころは、プティ自ら明かした綱渡りの内幕と、1974年当時撮影された貴重な映像の数々。

ただし、残念ながら、まだデジタル技術が開発されていなかった時代ゆえ、当時撮影された肝心の綱渡りの場面は紙焼きの写真がほとんど。
テレビ局のヘリコプターから撮影された動画も、ワイヤーとプティが抱えたバーがかろうじて確認できる程度にとどまっているのが惜しいといえば惜しい。

とはいえ、それでも、この空前絶後の綱渡りの高さと危険度は、画面を通して十分に伝わってくる。
プティはこのとき、ワイヤーの上を8回渡り、45分間もWTCの間の空間にとどまっていたという。

そのプティの姿をじっと見つめ、彼の言葉に耳を傾けているうち、これほどの冒険が、本当に、現実に行われたのだという感慨が実感を伴って胸に迫ってくる。
そうした当たり前の感想とともに、プティの命をかけたパフォーマンスがわれわれに伝えてくるものが詩情であるということに、改めて気がついた。

羽根もエンジンもなく、スーパーマンでもアイアンマンでもない、ごく普通の人間が、地上411メートルの空間、というより空を横切る一本の線の上を、命綱もつけないで歩いている。
われわれが実人生で目にする光景の中で、これほど現実でありながらも現実とは思えず、これほど幻想的でありながら幻想ではない、という光景がほかにあるだろうか。

もったいないと思ったのは、ドラマ仕立てにした再現映像が意外に多く、ドキュメンタリー映画としての完成度を損なっている感もあること。
このあたりは、34年前の出来事をドキュメンタリー作品化する上での限界だったのかもしれないが。

オススメ度B。 

旧サイト:2017年03月26日(日)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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