『断崖』(NHK-BSP)😉

Suspicion
99分 1941年 アメリカ=RKOラジオ・ピクチャーズ 日本公開:1947年 セントラル映画社

ヒッチコックがイギリスからアメリカに渡って監督した4本目の作品だが、ヒッチコック自身は『レベッカ』(1940年)と同じで、実質的には「イギリス映画だった」としている。
自分自身をはじめ、主役のケイリー・グラントもジョーン・フォンテインもイギリス出身、フランシス・アイルズが書いた原作小説『犯罪以前』もイギリスの小説で、当然物語の舞台もイギリスだからだ。

ただし、撮影はもちろんアメリカで行われたため、アメリカ人によるイギリス観が反映されたやたらに壮大で豪勢なセットは、ヒッチコックのお気に召さなかったらしい。
だからかどうか、サスペンスとしては及第点に達していながら、全体的にはヒッチコックらしいキレと深みに欠け、いまひとつ食い足りない。

ストーリーの骨子と妙味は、箱入り娘のリナ・マクレイドロウ(フォンテイン)が、結婚した夫ジョニー・エイスガース(グラント)に惚れ抜いていながら、実は金目当ての人殺しだと思い込んでしまうところにある。
ジョニーの親友ビーキー・スウェイト(ナイジェル・ブルース)がジョニーと出かけたパリで急死したり、リナの父マクレイドロウ将軍(セドリック・ハードウィック)が亡くなった直後に莫大な遺産に興味を示したり、さらには保険会社からジョニーに届けられた封書にリナに保険がかけられていることが書かれてあったりと、様々な状況証拠が示されるたびにリナは恐れ慄く。

とりわけ、寝込んでしまったリナの元に、ジョニーが毒を入れたと思わせるミルクのグラスを運んでいくシーンは、サスペンス映画史上に残る名場面。
ヒッチコックはミルクの白さを印象付けるため、ミルクの中に豆電球を仕込んだそうで、グラントの冷たい眼差しと表情も『疑惑の影』(1943年)のジョセフ・コットンに優るとも劣らぬ不気味さを感じさせる。

実は、このシーンのあと、出来上がった映画とはまったく異なる結末を撮るつもりだった、とヒッチコックは『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(1981年/晶文社)の中で語っている。
これが大変ひねりの効いたエンディングで、ぜひ実現してほしかったところだが、プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックが頑として許可しなかったそうだ。

そういうことを知ってしまうと、本作の実際のオチはいささか取ってつけたようで、腰砕けに終わっている感も拭えない。
実際、ヒッチコック自身も、本作を気に入らない自作の1本に挙げている。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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