BS世界のドキュメンタリー『民間初のロケットに挑んだ男』(NHK-BS1)😉

Fly Rocket Fly 
45分 2018年 制作:ドイツ=Lunabeach TV und Media GmbH
初放送:2021年4月16日午前0時10分〜0時55分

アメリカとソ連が宇宙開発競争に明け暮れていた1960年代後半、民間の独力でロケットを打ち上げようとしたドイツの起業家にしてロケット技術者ルッツ・カイザーの物語。
第二次世界大戦中、空爆による火薬と硝煙にまみれた少年時代を送ったカイザーは、当時からロケットに取り憑かれたような人間だった。

高校で放課後に航空宇宙工学の勉強をするようになり、シュツットガルト大学に進むと、仲間を集めてロケット宇宙工学グループを結成。
まだ学生の身でありながら、シュツットガルトでエンジニアたちを募り、土地を借りて研究施設を建て、戦後初の液体燃料ロケットのエンジンを開発する。

米ソに続けとばかり、ヨーロッパ諸国がロケット開発に乗り出しては失敗を繰り返していた当時、ドイツ政府は独自に宇宙工学研究の国家的プロジェクトをスタートさせる。
この研究に参加することになったカイザーたちの学生グループは、350万マルクの資金を提供され、低コストのロケット開発に取りかかった。

これが、1969年にアメリカが人類初の月面着陸に成功した直後のころのこと。
国家的大目標を達成した余波で、職にあぶれていた大勢のNASAのエンジニア、ジャック・フライデイとピート・ジャナクはカイザーに声をかけられてドイツに渡った。

フライデイいわく「カイザーのプロジェクトはとても小さなモノで、NASAでは100人体制で当たった仕事を、私ひとりで担当しなければならなかった」。
しかも、ロケット開発の途中、ドイツ政府がフランスのアリアン・ロケット計画への参加に方向転換したため、カイザーの計画は1973年になって大幅な規模縮小に追い込まれてしまう。

夢を諦めきれないカイザーはドイツ政府と袂を分かち、OTRAG(オートラグ=軌道輸送ロケット株式会社)という自分の会社を創立して社長に就任。
裕福な医師を中心とした1600人もの株主を集め、約1億マルクの資金を調達したというから、もはや学生の研究や一起業家の道楽の範疇を遥かに超えている。

ロケット開発史上でいまも名を残すヴェルナー・フォン・ブラウンを初代の会長に据え、彼が体調を崩して退任すると、今度は元NASAのケネディ航空宇宙センター長、クルト・ディボスを招聘。
こうして新たなロケット計画の陣容が整ったのだが、ドイツ国内にはロケットを建造し、発射台を作れるだけの適当な土地を確保するのが難しい。

そこでカイザーがぜひにと協力を依頼したのが、偶然同じ飛行機に乗り合わせたというビジネスマンのフレデリック・ワイマール。
ボクシング史上に残る1974年の名勝負、ザイール(現コンゴ共和国)でモハメド・アリがジョージ・フォアマンをKOした「キンシャサの奇跡」の仕掛人のひとりである。

ワイマールの仲介でカイザーに引き合わされたザイールのモブツ大統領は、カイザーのロケット開発計画に大いに興味を示して、「国内のネズミを取り締まれる偵察衛星がほしい」と要望。
これにカイザーが「5年以内に作ってお見せしましょう」と回答し、ザイールでのロケット発射場建設がスタートする。

ザイールとOTRAGとの契約期間は1975年から2025年まで。
事実上、モブツ大統領から「何でもやっていい」というお墨付きを得たカイザーは、約200人のザイール人を雇い、シャバ州北部の台地10万㎢を開拓して、ケネディ宇宙センターのミニチュア版のようなロケット発射基地を建設する。

本作がグッと盛り上がるのはこのくだりからで、ロケットと衛星の研究開発は表向き順調に進行。
しかし、カイザーやOTRAGのスタッフが大いに気勢を上げていたころ、かねてモブツに反感を抱き、このロケット計画を警戒していた米ソから疑問と批判の声が上がり始める。

アメリカのメディアは元ナチス親衛隊がカイザーの計画に関与していると報じ、元ニューヨーク・タイムズ特派員タッド・シュルツはザイールで核巡航ミサイルが建造されているという記事をペントハウスに寄稿。
あげく、カイザーのロケット発射基地はモブツ政権打倒を狙うコンゴ解放戦線の攻撃目標にされてしまう。

対抗措置として、カイザーは元フランス外人部隊の傭兵4人を雇い、30人のザイール人を訓練させて警備隊を組織。
文字通り風雲急を告げる事態の最中、新たなロケットの打ち上げが着々と進んでいたところへ、モブツ大統領が自ら輸送機を操縦し、自分の取り巻きや世界各国のメディアを従えて発射基地へやってくる。

「きみたちの打ち上げを見にきたぞ」と言うモブツを、カイザーは基地内のレストランに招待し、ザウアークラウトでもてなした。
果たして大統領の目の前での衛星ロケット打ち上げは成功するのか、盛り上げるだけ盛り上げた矢先、最後にはジョン・ヒューストン監督の映画のような幕切れが訪れる。

いまや宇宙開発はアメリカでも民間企業が中心的役割を果たすようになり、日本にも月を目指すと公言している実業家がいる。
そういう〝ロケットマン〟たちの先駆け的存在でもあったカイザーの野心と哀感が胸に迫る好編だった。

オススメ度B。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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