『エベレスト 3D』(WOWOW)😉

Everest
121分 2015年 アメリカ、イギリス、アイスランド:ユニバーサル・ピクチャーズ 
日本配給:東宝東和

前項『運命を分けたザイル』(2003年)と同様、実際に起こった遭難事故を描いた山岳映画だが、こちらは事故そのものも製作規模もはるかに大きい。
劇場公開当時はIMAX3Dで公開されているので、映画館の大スクリーンで見たら大変な迫力だっただろう。

1996年5月、ニュージーランドの登山ガイド会社アドベンチャー・コンサルタンツ(AC)、マウンテン・マッドネス(MM)が主催する登山家の公募隊がエベレスト登頂を目指す。
AC、MMともにスタッフはガイド3人、シェルパ1人の計8人、参加者はAC8人、MM9人の計17人で、6万5000ドルの費用を払って参加したアマチュアばかり。

未踏峰のルートがほぼ征服され尽くした1980年代以降、ヒマラヤではプロの登山家がガイドを務め、アマチュアの参加者を頂上まで導く〝商業登山〟が流行するようになった。
日本では1980年代半ば、〝生きがい療法〟の一環として医者が募集したがん患者のチームがエベレストに登頂、賛否両論を巻き起こしている。

しかし、この映画の題材となったツアーでは、如何せん素人の寄せ集めだけに、登攀の最中に様々なアクシデントが続出。
参加者が酸素不足で錯乱状態に陥ったり、怪我や低体温症で身体が動かなくなったり、そのおかげで登攀の途中で先に進めなくなる〝渋滞〟が起こったり。

そうした中、ACの顧客ダグ・ハンセン(ジョン・ホークス)が、登頂予定時刻の午後2時より2時間も遅れているのに、「ここまで来たんだから頂上まで行きたい」と主張。
前年もダグが頂上寸前で登頂を断念していたことを知っているガイドのロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)は、すでに下山が遅れているにもかかわらず、ダグを頂上まで連れて行く。

結果的にはこの判断ミスが仇となり、ダグもロブも下山の途中で猛烈な吹雪に遭い、一歩も動けなくなってしまった。
ベースキャンプで帰りを待っていたガイ・コター(サム・ワーシントン)は無線でロブを励まし、衛星電話と無線で妊娠中のロブの妻ジャン(キーラ・ナイトレイ)と会話をさせるが、そうした努力も虚しくロブは遭難。

その間にほかのメンバーも次々に足止めを余儀なくされ、最終的には当時としては山岳史上最大となる8人が死亡。
クレバスを超える最中に恐怖からヒステリーを起こし、ロブの手を煩わせていたベック・ウェザース(ジョッシュ・ブローリン)が助かるあたりは、事実の映画化とはいえ、いささか皮肉な顛末に感じられる。

山岳映画としては十分面白く、山岳界に対する問題提起になっていることも評価できる。
が、もともとは商業目的でアマチュア登山家の欲求を満足させるために行われたツアーであり、悲劇に終わっても胸に迫るほどの感動は湧かない。

また、セットやCGを使っている部分がロケ撮影よりきれいに見え過ぎるのも興を削いだ。
これは山岳映画の宿命的弱点でもあるが。

オススメ度B。

旧サイト:2017年10月11日(水)付Pick-up記事を再録、加筆

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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