『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(WOWOW)🤗

The Words
96分 2012年 アメリカ:CBSフィルムズ 
日本公開:2013年アース・スター エンターテイメント

先月、『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年)を観て思い出した、小説を題材としたミステリー映画。
主演のブラッドリー・クーパーがエグゼクティヴ・プロデューサー(製作総指揮)のひとりも務めている。

語り手は流行作家クレイ・ハモンド(デニス・クエイド)で、彼が新刊『ザ・ワーズ』のプロモーションで自作を朗読する場面から始まる。
その『ザ・ワーズ』の主人公、ハモンドの分身と思しき売れない作家ローリー・ジャンセン(クーパー)が本篇の主人公。

最近の映画には珍しい、フィクションの中にもう一つのフィクションがあるという「入れ子構造」である。
この小説の主人公ローリーは何度も自分の原稿を出版社に持ち込み、その才能は認められながらも本にしてもらえず、父親に生活費を無心しながら食いつないでいる。

そうした苦しい生活の最中、健気な妻ドナ(ゾーイ・サルダナ)とパリへハネムーンに行き、アンティーク・ショップで目に止まった古びた革の書類鞄を購入。ローリーがアメリカに帰って鞄の中を改めてみると、閉じられたジッパーの内側にボロボロの紙束が入っている。

そこには、誰が書いたものとも知れない小説、ラヴストーリーの傑作『窓辺の涙』がタイプされていた。
読み始めた途端たちまち夢中になったローリーは、憑かれたようにこの小説をパソコンで書き写してゆく。

このプリントを読んだドナが大いに感動した上、てっきり夫のクーパーが書いたものだと早合点。
ドナに勧められるまま、ローリーがさっそく『窓辺の涙』を出版社に持ち込んで発売されるや、たちまちベストセラーに。

ローリーも一躍流行作家となり、文学界の新人賞を受賞。
長年、出版を拒否されていた自作も陽の目を見て、我が世の春を謳歌していた矢先、お約束の展開ながら、『窓辺の涙』の本当の作者(ジェレミー・アイアンズ)がローリーの目の前に現れる。

この実作者がいかにして大ヒット作となった小説を書き上げ、原稿を紛失してしまったかを語るところから、映画はもう一つの「入れ子構造」の中へと入ってゆく。
ローリーと実作者のやり取りは、近年のダイアローグ・ドラマの中では屈指の面白さ。

とりわけ、実作者のアイアンズが口にするセリフは極めて強烈だ。
物書きの実人生の深淵に迫るかのような言葉の数々が、次から次へと胸に突き刺さってくる。

「私は言葉(ワーズ)を愛し過ぎたがゆえに妻を愛することができなかった」
「人間が一度でも口にした言葉、紙に書いた言葉は二度と消し去ることはできず、そういう言葉は一生背負って生きていくしかない」

静かに責めるアイアンズと対峙して、じっと受け止めるクーパーの抑えた演技がまた素晴らしく、彼のベストの1本に数えていいだろう。
ところが、これからいったいどうなるのかと固唾を呑んで観ていた矢先、〝本当の〟主人公である作家ハモンドが朗読をやめてしまう。

この先を知りたければ、みなさん、小説を買って読んでくださいね、というのだ。
そりゃないだろう、と思っていたら、客席で聞いていた女子大生ダニエラ(オリヴィア・ワイルド)が、いますぐに小説の続きを聞かせてほしい、とハモンドに迫ってくる。

妻と別れたばかりのハモンドはダニエラを自分の部屋に誘い、ボルドーを飲ませて自作の後半を語り始めるのだが。
米本国での批評が散々だったのは、このオチが中途半端な印象を残すからかもしれない。

日本でも賛否両論あるだろうが、ぼくには納得できるエンディングで、久しぶりに知的な刺激を受けた。
フランスの小説ミステリの傑作『私家版』(1996年)あたりが好きなファンなら、きっとのめりこめるはず。

オススメ度A。

旧サイト:2014年04月11日(金)付Pick-up記事を再録、加筆

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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