『君の名は。』🤗

107分 2016年 東宝 

本作は劇場公開当時、最も大きなスクリーンで観ようと、丸の内ピカデリーまで足を運んでいる。
長篇アニメを映画館へ観に行ったのは宮崎駿の『風立ちぬ』(2013年)以来3年ぶりだった。

『風立ちぬ』は監督・脚本・原作の1人3役を務めた宮崎駿の〝引退作〟として注目を集め、興行収入が100億円を突破する大ヒットとなった。
それから3年後に製作されたこの『君の名は。』は、宮崎以後のアニメ界で最も注目されていた新海誠が監督・脚本・原作・編集・絵コンテの1人5役を兼務して制作。

8月26日に劇場公開されると、口コミで人気が広がり、9月22日までに興収100億円を突破した。
ちなみに、公開後28日目での興収100億円突破は『風立ちぬ』以来、宮崎のスタジオジブリ作品以外では初、つまり宮崎駿に次いで邦画史上2人目の〝歴史的快挙〟だったという。

最終興行収入は250億3000万円に達し、今年『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に抜かれるまで邦画歴代2位の座を保っていた。
ただ、劇場公開当時、ぼく自身は『風立ちぬ』がいまひとつピンとこなかったため、このNHKの名作ラジオドラマからタイトルをいただいた『君の名は。』にもあまり期待はしていなかった。

開巻、夜空を覆う美しい流星群がスクリーンいっぱいに広がり、地球めがけて真っ赤に燃えた隕石の欠片が落下してゆく。
大変素晴らしいオープニングで、一気に作品世界へと引き込まれたが、このシーンが何を意味しているのか、物語の半ばまでわからない。

主人公は東京の新宿でこの流星群を見上げていた高校生の少年・立花瀧(声=以下同:神木隆之介)、飛騨の山奥にある糸守町に住む女子高生・宮水三葉(上白石萌音)。
流星群がもたらした超常現象なのか、このふたりの間で突然〝男女入れ替わり〟が起こり、瀧になった三葉、三葉になった瀧が繰り広げるドタバタが序盤の見せ場になる。

このアイデアは平安時代の小説『とりかへばや物語』(作者不詳)に基づいているそうで、ぼくらの世代には大林宣彦の『転校生』(1982年、リメイク版:2007年)を彷彿とさせる。
本作では主人公の2人が友だち同士ではなくまったくの他人で、〝入れ替わり〟の起こる状態もずっと続かず、週に何度か、前触れもなく起こるという設定になっているところが面白い。

お互い遠く離れたところに住んでいて、意思の疎通ができない瀧と三葉は、スマホのアプリ〈日記帳〉を利用し、〝入れ替わり〟が起こっている間の出来事を報告し合うようになる。
まさかこんなストーリーだとは夢にも思わず、じっくり画面を見つめていると、瀧のスマホが明らかにiPhone6か6sがモデル(アップルのマークは架空のものに変えられている)であるのに対し、三葉のほうは5か5sだということがわかる。

そこまで背景や小道具を丁寧に描き込んでいることに、アニメ音痴のぼくは感心させられたが、なぜこんなに細かい絵作りをやっているのか、このあたりまではまだわからなかった。
やがて〝入れ替わり〟が途絶え、無性に三葉に会いたくなった瀧は、〝入れ替わり〟が起こっている間に見た町や山の風景を絵に描き、似たような景色を旅行雑誌や風景写真で探し出すと、友だちと一緒に飛騨の山奥へ向かう。

そして、ようやく三葉の住む糸守町に辿り着くと、そこは3年前に廃墟になっていたのだった。
目の前のスクリーンに変わり果てたかつての田舎町が広がるこのシーンは、『シン・ゴジラ』が現代の東京を破壊し尽くす場面と同じくらい、あるいは別の意味でそれ以上にもっと強烈、かつ圧巻である。

ここに至って、そうか、開巻の流星群、iPhoneの機種の違いをはじめ、しっかり描き込まれた様々なディテールも、すべてはこの展開への布石であったのか、と見る者は思い至る。
個人的には、ロッド・サーリングの『トワイライト・ゾーン』、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』、筒井康隆の『時をかける少女』など、かつてSFのタイムトラベルものに読み耽っていた少年時代の記憶を引っ張り出されて、心揺さぶられる思いがした。

いったい糸守町に何が起こったのか、瀧と三葉は〝本人同士〟として会うことができるのか。
絵の力、ストーリーの力、さらに大変効果的に配されたRADWIMPSの歌曲の力が渾然一体となって、われわれは新海誠が用意した素敵なエンディングへと導かれる。

ぼく自身は新海作品を見るのはこれが初めてで、これまでは勝手に作家性の強い映画人だろうと思い込んでいた。
それもあながち間違いではないらしいけれど、本作をどのような映画にしたかったという問いに、彼はこう答えている。

「とにかく、この映画は楽しいですよ、と堂々と言えるものにしたかった。
誰もが楽しめるようなエンターテインメントを作りたいという思いはずっと心の中にあった」

教えられました。
アニメや映画に限らず、お客さんから銭を取って見せる、読ませる作品とはこうでなくてはいけない。

採点は85点(オススメ度A)です。

旧サイト:2016年10月3日(月)付Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

142『言の葉の庭』(2013年/コミックス・ウェーブ)B※
141『天気の子』(2019年/東宝)A
140『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年/アスミック・エース)C
139『サニー/32』(2018年/日活)C
138『凶悪』(2013年/日活)B
137『ほえる犬は噛まない』(2000年/韓)C
136『暗黒の恐怖』(1950年/米)C※
135『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年/米)A※
134『フューリー』(2014年/米)C※
133『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(2012年/露)B※
132『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019年/露)C
131『ゾンビ・ガール』(2015年/米)B※
130『狼男アメリカン』(1981年/米)B※
129『ウルフ』(1994年/米)B
128『パルプ・フィクション』(1994年/米)A
127『トゥルー・クライム』(1999年/米)C
126『ブラッド・ワーク』(2002年/米)B
125『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン4』(2016年/米)B
124『ザ・コミー・ルール 元FBI長官の告白』(2020年/米)B
123『ジェミニマン』(2019年/米)B
122『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019年/加)B
121『ドッペルゲンガー』(2003年/アミューズピクチャーズ)B
120『屍人荘の殺人』(2019年/東宝)B
119『ドクター・スリープ』(2019年/米)B
118『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(2013年/米)A※
117『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)B※
116『陽だまりのグラウンド』(2001年/米)B
115『ホテル・ムンバイ』(2019年/豪、印、米)A
114『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年/松竹)B
113『閉鎖病棟−それぞれの朝−』(2019年/東映)C
112『真実』(2019年/仏、日)A
111『氷の微笑』(1992年/米)B
110『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
109『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
108『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
107『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
106『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
105『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
104『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A

13『前科者』(1939年/米)C
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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