『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』🤗

Trumbo 124分 2015年 アメリカ:ブリーカー・ストリート
日本公開:2016年 東北新社、STAR CHANNEL MOVIES

Pick-up前項『Mank/マンク』(2020年)を観て思い出したのが、5年前に映画通の間で話題になったこの作品。
とっくの昔に絶版になっていた原作ノンフィクションまで米本国で復刊され、邦訳も出版された。

赤狩りの嵐が吹き荒れた1950年代のアメリカ、下院非米活動委員会(HUAC)によってブラックリストに載せられた「ハリウッド・テン」のひとり、脚本家ダルトン・トランボの戦いと人生を描いている。
早く観に行かないと終わってしまうと思い、劇場公開された2016年のこの日、巨人戦取材をサボってTOHOシネマズシャンテへ駆けつけたら、昨夜ネットでチケットを確保しておいた午後1時35分の回は完売、場内は満席だった。

ブライアン・クランストン演じるトランボは、オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック主演の『ローマの休日』(1953年)の脚本を匿名で執筆、アカデミー賞を獲得した伝説的脚本家(オスカーは名前を貸したイアン・マクラレン・ハンターが受賞)、というイメージが日本では一般的である。
また、自分の原作小説を自ら脚本化、監督した古典的名作『ジョニーは戦場へ行った』(1971年)で、反戦平和主義者としての評価も高い。

しかし、トランボが1950年に投獄されてからの10年間、これほど迫害され、屈辱を味わい、家庭や生計の危機に瀕していたとは、不勉強にしてほとんど知らなかった。
しかも、トランボが追い詰められてゆく過程で、往年の名優やプロデューサーが次から次へと実名で登場し、映画のイメージとはかけ離れた姿を見せるくだりが非常に衝撃的である。

例えば、HUACの手先となってトランボをハリウッドから追放しようとするジョン・ウェイン(デヴィッド・ジェームズ・エリオット)。
この西部劇のスターがハリウッドきってのタカ派だったことは知っていたが、トランボとの口論の最中、実際は徴兵を忌避しており、従軍経験がないことを暴露されて言葉に詰まった場面には驚かされた。

もうひとり、最初のうちはトランボの友人でいながら、ハリウッドで干され、ワシントンでの公聴会でトランボを共産主義者だと証言するエドワード・G・ロビンソン(マイケル・スタールバーグ)。
かつては自慢の絵画コレクションを売ってまでトランボの裁判費用を用立てていたこの名優が、トランボに向かって「1年間、何の役ももらえなかったんだ。きみは名前を隠して書けるからまだいい。ぼくはこれが自分の職業なんだよ(”This is my work”)」と自分の顔を指差すシーンが痛切だ。

トランボと3年契約を結び、やはり最初のうちはトランボをかばっていたMGMのルイス・B・メイヤー(リチャード・ポートナウ)もしかり。
当時ハリウッドで大変な影響力を誇っていたゴシップ・ライター、ヘッダー・ホッパー(ヘレン・ミレン)に「トランボを解雇しないと、あなたの本名と、あなたがユダヤ人であることを新聞に書いてやるわよ!」と脅迫され、トランボの敵に回る。

そうした人間たちによって言われのない誹謗中傷を受け、法廷侮辱罪で逮捕、収監されたトランボは、1年の刑期を終えて出所してからも、大手の映画会社にはまったく仕事をさせてもらえない。
そこで、アクション、西部劇、SFなど、B級プログラムピクチャーを専門とするキング・ブラザースに自ら「私に偽名でシナリオを書かせてくれないか。ギャラはそちらの言い値で結構だ」と売り込む。

本作が単なる偉人伝やよくある逆転ストーリーの展開に堕していないのはここからで、情熱家で正義漢だったトランボが、実は非常に現実的な策略家でもあった一面を発揮。
自分と同じように仕事にあぶれたシナリオライターをかき集め、ゴリラが暴れ回ったり、宇宙人が農場の娘と恋に落ちたりするくだらない映画の脚本を書かせ、社長のフランク・キング(ジョン・グッドマン)に「つまらん」と突っ返されると、「それならがおれが直してやる」とタイプライターに向かう。

トランボは家族も仕事に協力させ、妻のリオン(ダイアン・レイン)や子供たちに電話の応対や出来上がったシナリオの配達をさせる。
家族の小言や生活上の雑音をシャットアウトするため、バスルームにタイプライターを持ち込み、ウイスキーやアンフェタミンをあおっては執筆を続けた。

トランボが孤軍奮闘を続けている間、娘ニコラ(エル・ファニング)は学校で父親の職業を尋ねられても答えられず、息子クリス(ミッチェル・サコックス)はガールフレンドとのデートをキャンセルして父親の仕事を手伝う日々。
いつしか家庭は崩壊へ向かっていき、トランボは夫として、父として、改めて妻や娘と対峙しなければならなくなる。

社会でも家庭でも様々な苦難を乗り越え、政治的圧力を跳ね返し、トランボが『スパルタカス』(1960年)で自分の名前がクレジットされるのを見る場面では、思わず涙が滲んだ。
ものを書くとはどういうことか、自分の作品を世に問う人間に求められる覚悟とは何か、そういうことを改めて考えさせられた半面、やはりライター稼業はやめられないよな、と思わせてくれた作品でもある。

アカデミー主演男優賞にノミネートされたトランボ役のブライアン・クランストンをはじめ、妻クレオ役のダイアン・レイン、娘ニコラ役のエル・ファニング、脚本家仲間アーレン・ハード役のルイスC・Kはそろって好演。
トランボにとって一番の仇敵となるホッパー役のヘレン・ミレンも圧倒的な存在感を見せており、E・G・ロビンソン役のマイケル・スタールバーグ、元ギャングだったというフランク・キング役のジョン・グッドマンもいい味を出していた。

監督は『オースティン・パワーズ』(1997年)、『オースティン・パワーズ デラックス』(1999年)、『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』というおバカ映画でブレークしたジョン・ローチで、今回は大変重厚かつエキサイティングな人間ドラマの構築に成功している。
イアン・マクラレン・ハンターの元で創作を学び、トランボの娘たちにも直接取材したというジョン・マクナマラのシナリオも大変秀逸。

採点は90点(オススメ度A)です。

旧サイト:2016年07月30日(土)付Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

134『フューリー』(2014年/米)C※
133『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(2012年/露)B※
132『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019年/露)C
131『ゾンビ・ガール』(2015年/米)B※
130『狼男アメリカン』(1981年/米)B※
129『ウルフ』(1994年/米)B
128『パルプ・フィクション』(1994年/米)A
127『トゥルー・クライム』(1999年/米)C
126『ブラッド・ワーク』(2002年/米)B
125『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン4』(2016年/米)B
124『ザ・コミー・ルール 元FBI長官の告白』(2020年/米)B
123『ジェミニマン』(2019年/米)B
122『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019年/加)B
121『ドッペルゲンガー』(2003年/アミューズピクチャーズ)B
120『屍人荘の殺人』(2019年/東宝)B
119『ドクター・スリープ』(2019年/米)B
118『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(2013年/米)A※
117『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)B※
116『陽だまりのグラウンド』(2001年/米)B
115『ホテル・ムンバイ』(2019年/豪、印、米)A
114『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年/松竹)B
113『閉鎖病棟−それぞれの朝−』(2019年/東映)C
112『真実』(2019年/仏、日)A
111『氷の微笑』(1992年/米)B
110『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
109『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
108『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
107『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
106『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
105『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
104『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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