『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』ブルース・クック😁😭😳🤔🤓

Trumbo 
発行:世界文化社 翻訳:手嶋由美子 初版第1刷:2016年7月15日 定価:2000円=税別
 原語版発行:1977年 原語復刻版発行:2015年

前項の同題伝記映画の劇場公開に合わせて出版された原作ノンフィクション。
ただし、この年の新刊ではなく、脚本家ダルトン・トランボが亡くなった翌年の1977年に刊行されており、米本国でもすでに絶版となっていたのだが、映画版の公開に合わせて復刊、日本でも初めて翻訳版が発売された。

実に38年ぶりの再版が実現した経緯について、映画の脚本を書いたジョン・マクナマラが序文で詳しく解説している。
最初のきっかけは2008年、マクナマラの自宅を訪ねた友人の映画プロデューサー、ケヴィン・ケリー・ブラウンがたまたま書斎の本棚にあったこの本を見つけたことにある。

ブラウンが「彼はすごいやつだよ」と言うので、マクナマラはてっきり脚本家の大先輩トランボのことかと思ったら、ブラウンが称賛していたのは著者ブルース・クックのほう。
クックはアメリカでは知る人ぞ知る伝記作家兼ジャーナリストで、彼も2003年11月に71歳で亡くなったばかりだった。

そんな偶然の出来事が契機となって、ブラウンが製作を担当、マクナマラが脚本を執筆し、映画版『トランボ』の製作がスタートしたという。
これだけでも十分面白いインサイドストーリーが書けそうな話だ。

この原作が映画版と大きく異なっているのは、自分を追放したハリウッドに復帰を果たしたトランボが1970年、全米脚本家組合(WGA)に贈られた功労賞の受賞スピーチで、自分たちをブラックリストに入れて迫害した人間たちをも含めて、「赤狩りの時代に加害者はいなかった、全員が被害者だった」と語ったくだり。
映画版では大変感動的な場面として描かれていたが、実際はトランボとともにパージされたハリウッド・テンの仲間から「ひとりだけ寝返った」と猛反発を受けていたという。

とりわけ痛烈に非難していたのがアルバート・マルツで、トランボと何度も激烈な手紙のやり取りをしていた内容が明かされている。
ちなみに、マルツは映画版には登場せず、複数の脚本家を組み合わせた架空の人物に置き換えられており、両者の確執についても一切触れていないと知ると、やはり映画への評価も割引かざるを得ない。

また、著者クックはトランボの有り余る才能、不屈の精神力をきちんと評価する一方、大変な見栄っ張りで、まともな経済観念に乏しく、家族や友人も呆れるほどの浪費癖があったことも指摘。
トランボほどの筆力があれば本格的な小説を書き、作家生活に移行するべきで、そのチャンスもあったはずなのに、結局映画の世界にとどまったのは、派手な生活をするための大金を稼ぎやすかったからではないか、という辛辣な見解も示している。

映画ほどにはしんみりと感動できないが、より詳しく書かれているぶん考えさせられることも多く、複雑な余韻が残った。
ノンフィクションライター、シナリオライター、及びその志望者は全員必読。

旧サイト:2016年10月31日(月)付Pick-up記事を再録、修正

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2020読書目録
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24『偽りのサイクル 堕ちた英雄 ランス・アームストロング』ジュリエット・マカー著、児島修訳(2014年/洋泉社)😁😳🤔🤓
23『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル著、児島修訳(2013年/小学館)😁😳🤔🤓
22『陽だまりのグラウンド』ダニエル・コイル著、寺尾まち子、清水由貴子訳(2002年/竹書房)😁🤔🤓
21『プロ野球審判 ジャッジの舞台裏』(2012年/北海道新聞社)😁😭😳🤔🤓
20『全球入魂!プロ野球審判の真実』山崎夏生(2019年/北海道新聞社)😁😭😳🤔🤓
19『平成プロ野球史 名勝負、事件、分岐点-記憶と記録でつづる30年-』共同通信社運動部編』(2019年/共同通信社)😁😳🤔🤓
18『球界時評』万代隆(2008年/高知新聞社)😁🤔🤓
17『銀輪の巨人 GIANTジャイアント』(2012年/東洋経済新報社)😁🤔🤓
16『虫明亜呂無の本・1 L’arôme d’Aromu 肉体への憎しみ』虫明亜呂無著、玉木正之編(1991年/筑摩書房)😁😭🤔🤓
15『洞爺丸はなぜ沈んだか』(1980年/文藝春秋)😁😭😢🤔🤓😱
14『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』(1995年/中央公論新社)🤔🤓
13『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)😁😭😢🤔🤓※
12『太平洋の生還者』上前淳一郎(1980年/文藝春秋)😁😭😳🤔🤓😖
11『ヒトラー演説 熱狂の真実』(2014年/中央公論新社)😁😳🤔🤓
10『ペスト』ダニエル・デフォー著、平井正穂訳(1973年/中央公論新社)🤔🤓😖
9『ペスト』アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳(1969年/新潮社)😁😭😢🤔🤓
8『復活の日』小松左京(1975年/角川書店)🤔🤓
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖 
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔
 
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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