BS世界のドキュメンタリー『スケボーが私を変える アフガニスタン 少女たちの挑戦』(NHK-BS1)🤗

Learning to Skateboard in a War Zone(If You’re a Girl) 
41分 2019年 イギリス=Grain Media
初放送:2020年8月4日午前0:00〜0:41

タリバン政権下に施行された女性抑圧政策により、政権が崩壊した2001年以降も、アフガニスタンの女性は極めて厳しい状況に置かれている。
学校で勉強する権利を与えられていないために読み書きができない女性、12〜13歳で結婚させられる少女がいまもあとを絶たない。

そうした中、カブール市内の貧困地域で未就学児童を支援しているNPO法人スケーティスタンでは、授業の一環としてスケートボードを取り入れている。
本作はその活動とカリキュラムを1年間に渡って追い続け、短編ドキュメンタリー部門でアメリカのアカデミー賞を受賞した。

スケーティスタンはもともと、オーストラリア人オリヴァー・パーコビッチが設立した組織である。
現在は地元のアフガニスタン人に運営が引き継がれ、これまでに7,000人以上の子供たち(うち半分以上が女子)を支援してきた。

教師とスケボーのインストラクターを務める若い女性ハニーフェはかつて、自分も同じ地域、同じ境遇で育った。
12歳になるまで学校に通えず、公園でお茶を売って家計を支えていた彼女は、スケーティスタンの指導者に誘われてスケートボードを始める。

母親に相談したら猛反対され、とりあえず内緒でスケーティスタンに通っていたが、ボードに乗って前に進むまで1カ月もかかったという。
つまり、彼女自身は最初からスケボーの素質や才能に恵まれていたわけではない。

実際、このスポーツはまず、スケートボードの上に立つだけでも一苦労だ。
ボードに立つ姿勢を維持することでバランス感覚を養い、地面を蹴って前進する勇気を身につけ、やがてうまく滑れるようになって、ハニーフェは恐怖心を振り払う。

ハニーフェはやがて、スケボーが上達することによって、いままでに感じたことのない達成感とカタルシスを得るようになった。
ここには、スポーツが人間に与えるものは何か、スポーツをすることで人間はどのように変われるのか、という最も原初的で根源的な事例が示されている。

ひとつのスポーツを始め、上達してゆく過程で、人間は自らの成長を感じ取り、独立心を養うのだ。
「いつかはスケボーの国際大会に出たい」と話し、ついに家を出る決心をするハニーフェのように。

アフガニスタンの民族衣装を着たまま、ヘルメット、スニーカー、プロテクターを身につけてスケボーの練習に励む少女たちの姿は、被写体として非常に美しく、魅力的に映る。
インタビューに答えて「スケボーがうまくなりたい」と、目を輝かせながら語る彼女たちの表情は、観る者を惹きつけ、前のめりにさせないではおかない。

とくに、「スケボーをやってると自分が変わる気がする」と話す少女レイハネのインタビューが象徴的だ。
「自信が湧いてくるの。みんなの前で斜面をうまく滑れると最高の気分」という彼女の言葉は、スポーツの価値と魅力と存在理由を的確に言い表している。

その一方で、本作はハニーフェや少女たちが置かれた無慈悲なまでの現実も描いている。
ハニーフェの母は一度も学校に通えないまま、14歳で子供たちを産み、35歳(とは思えないほど老け込んで見える)になったいま、娘たちの将来について語る。

「私は早くに結婚するしかなかったけど、この娘たちふたり(ハニーフェとすぐ下の妹)は大学まで行くべきだわ。
結婚はそのあとで考えればいい、娘たちには道を選ぶチャンスがある」

いつかは、このカブールのスケーティスタンから巣立ったスケボー選手の演技を、オリンピックで見たいものだ。
このドキュメンタリーに登場したカブールの子供、親、教師たち全員に、幸多からんことを祈ります。

オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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