『復活の日』(WOWOW)😉

156分 1980年 東宝

この作品は劇場公開当時、広島の宝塚劇場へ観に行き、テレビ放送された際にも何度か再見した。
今回はWOWOWの企画『深作欣二監督 生誕90年』の1本として放送されたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大に引っかける狙いも多少はあっただろう。

同題原作小説の著者・小松左京は、自作の映画化作品の中で、この『復活の日』を最も気に入り、高く評価していた。
と、緊急事態宣言の最中に初めて読んだ角川文庫版の巻末に、著者の次男・実盛氏が解説文の中で語っている。

邦画史的には森谷司郎が監督した『日本沈没』(1973年)のほうが高く評価されており、小松左京も同意見だろうと思っていたから、いまになって知った本当の感想はまことに意外。
どこがそんなに良かったのかと思いながら、じっくり再見した。

原作のストーリーを忠実に踏襲し、映画的飛躍を巧みに盛り込んでいるという点では、確かに『日本沈没』よりこの『復活の日』のほうが上かもしれない。
日本人の主人公・吉住周三(草刈正雄)がイギリスの原潜に乗って全滅した日本を再訪する、という原作通りの導入部に続き、ジャニス・イアンの主題歌『ユー・アー・ラブ』に乗ってタイトル・クレジットが流れる、というオープニングが、いま観ると映画的に大変よくできている。

映画化版で新たなキャラクターに造形し直し、ハリウッドから招いた登場人物もなかなか魅力的。
リチャードソン大統領(グレン・フォード)、バークレイ上院議員(ロバート・ヴォーン)、コンウェイ提督(ジョージ・ケネディ)、カーター少佐(ボー・スヴェンソン)、マクロード艦長(チャック・コナーズ)、ロペス大尉(エドワード・J・オルモス)、マリト(オリヴィア・ハッセー)などなど、交通整理だけでも大変そうな役者たちを、深作監督はきちんとわかりやすく描写している。

新型インフルエンザウイルスMM-88が蔓延する日本の描写も迫力たっぷり。
医療従事者がマスクや手袋をつけていないといった不自然な描写はあるものの、医師役の緒形拳、看護師役の多岐川裕美らの熱演で、原作よりも生々しさを感じさせる迫真の場面に仕上がっている。

とくに、多岐川が死んだ友人(丘みつ子)の子供を連れ出し、モーターボートで海へ出て服毒自殺するシーンが印象に残る。
昔観たときはあまりピンとこなかったのだが、いまはコロナ禍の最中とあり、現実にコロナ性の肺炎で亡くなった岡江久美子の顔が多岐川に重なった。

南極をはじめ、カナダ、北海道、潜水艦を借りたチリなど、世界各国で敢行されたロケ撮影はいま観ても壮大なスケールで、なかなか圧倒される。
中盤で多岐川が丘みつ子の死体を発見する団地は大阪、最後に草刈がハッセーと再会する湖畔は本栖湖と、深作とキャメラマンの木村大作は国内と海外の風景を厳選することにとことんこだわったという。

それでも傑作と言えるレベルに達していないのは、ストーリーの要をテロップで簡単に説明しているところなど、何か事務的に処理されている部分が著しくリアリティを損なっているからだ。
とくに、世界各国の南極基地が核ミサイルによって破壊される場面を、精巧とは言えないミニチュアが吹き飛ばされるだけの描写で済ませているあたりは稚拙、粗雑な処理と批判されても仕方があるまい。

基地にいるはずのケネディや夏木勲の最期の表情を見せることなく、「こうして人類は二度滅んだ」という字幕だけが出てきたときは、劇場公開時に観たときと同様、やっぱりシラケました。
ただし、角川春樹が日本のプロデューサーとして世界でも初めて南極でロケ撮影を敢行するなど、日本もハリウッド並みの大作が作れることを証明するんだ、と蛮勇とも言うべき意気込みを示したという点で、邦画史に残る特異な作品として記憶にとどめておいていい。

もっとも、本作はあくまでもエンターテインメント超大作。
人類とウイルスの戦いを詳細にシミュレートしている原作小説と違い、現代のわれわれがコロナ禍に晒されているからといって、この映画版を改めて再見する意味や価値は希薄じゃないかな、と個人的には思う。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

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31『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
30『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
29『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
28『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
27『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
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25『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
24『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
23『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
22『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
21『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
20『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
19『大脱出2』(2018年/中、米)D
18『大脱出』(2013年/米)B
17『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
16『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
15『グリーンブック』(2018年/米)A
14『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
13『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
12『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
11『前科者』(1939年/米)C
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2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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