『アルキメデスの大戦』(WOWOW)😉

130分 2019年 東宝

戦艦大和ネタや架空戦記モノのアイデアはもう出尽くしたんじゃないか、と思っていたら、こういう面白い映画が作られていた。
原作はリアルでヒネリの効いた高校野球モノ『クロカン』(1996〜2002年)、『砂の栄冠』(2010〜2015年)といった秀作のある三田紀房の劇画。

オープニング早々、昭和20(1945)年4月7日、坊ノ岬沖で戦艦大和が米空軍の猛攻撃を受けて沈没する場面が精巧なCGによって描かれる。
大変な劣勢の中、爆撃機を一機撃ち落とした若い砲兵が喜んでいたら、パラシュートで脱出した米軍パイロットをすぐさま救命機が助けて飛び去っていき、その様子を砲兵が呆然と眺めている、という点描がいい。

映画はここから8年前の昭和12年まで遡り、戦艦大和の建造をめぐる海軍内部の会議から本筋に入る。
旗艦金剛の老朽化が著しく、新たに主力となる軍艦建造が最重要議題となっていたこのとき、来るべき航空戦の時代に備えて航空母艦を作るべきだと訴える永野修身中将(國村隼)と山本五十六少将(舘ひろし)の航空主兵主義派、海軍の伝統に則って世界が瞠目する巨大戦艦が必要だと主張する平山忠道技術中将(田中泯)、嶋田繁太郎少将(橋爪功)ら大艦巨砲主義派が真っ向から対立。

両者が議論を続けるうちに建造予算をいかに安く抑えられるかが焦点となり、航空派が9300万円、大艦派が8900万円を提示し、大角岑生大将(小林克也)が大艦派に傾く中、2週間後の会議で決定することになる。
航空派の山本は、平山案の戦艦建造予算は安過ぎる、本当の建造費は自分たちの航空母艦よりもはるかに巨額となるはずだと睨み、自分たちでその金額を算出しようと計画。

そのために山本が海軍に引き入れ、少佐の階級と特別会計監査課長の肩書を与えるのが、東京帝大理学部で「100年に1人の数学の天才」とまで謳われた櫂直(菅田将暉)。
櫂は尾崎造船社長・留吉(矢島健一)にその才能を高く買われ、ひとり娘・鏡子(浜辺美波)の家庭教師をしていたが、留吉と嶋田少将の唱える大艦巨砲主義をせせら笑った上、鏡子と情交を通じていたと疑われ、帝大も退学となり、自暴自棄になって芸者遊びにうつつを抜かしている最中だった。

日本に見切りをつけてプリンストン大学に留学しようとした櫂が、いざアメリカ行きの船に乗った直後に翻意するくだりはいささか唐突に感じられ、説得力に乏しいものの、ここから俄然面白くなってくる。
平山案の設計図や見積書を閲覧しようにも、軍紀に阻まれて持ち出せないと知った櫂は自ら戦艦長門に乗り込み、艦内の様々な場所を巻尺で計測、独学で長門の見取図を作ると、これを1.6倍にした大和の設計図作成に着手。

そんな櫂の奮闘ぶりに魅せられ、最初のうちは反発していた田中正二郎少尉(柄本佑)が、積極的に櫂の仕事を手伝い、絆を強めていくあたりも、定石的ながら気分良く観られる。
しかし、それにしても、肝心の本物の設計図を見られず、嶋田少将らの計略で決定会議が3日も前倒しされた絶対不利の状況下で、櫂はどうやって「本当の建造費」を算出しようというのか。

このクライマックスの決定会議で、櫂が文字通り「100年に1人の数学の天才」としての真価を発揮する、というアイデアと筋書きは実によくできていて、グイグイ引っ張られる。
主役の菅田は熱演ぶりが過ぎて天才には見えないが、部下の柄本、山本役の館、平山役の田中など、脇を固める顔ぶれも独特の存在感を発揮しており、なるほど、これが令和の時代の架空戦記モノか、と感心させられた。

山崎貴監督としては『寄生獣』(2014年)、『寄生獣・完結編』(2015年)以来の快作で、同じ戦記モノ『永遠の0』(2013年)よりも見応えがあった。
ただ、ラストのどんでん返しに次ぐどんでん返しがうまくハマっているかどうかに関しては、評価の分かれるところでしょう。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの採録

46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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