『アンダーグラウンド』(WOWOW)😉 

UnderGround/ Подземље 170分 
1995年 フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア
日本公開:1996年 ヘラルド・エース

3月17日、WOWOWとTSUTAYAのコラボ企画『発掘良品/100人の映画通が選んだ本当に面白い映画。』の1本として放送された作品。
今回の「映画通」のゲストは漫才師兼映画監督の品川祐で、この人が推薦する作品なら面白いに違いないと思い、2時間50分の長尺にも怯まず鑑賞にチャレンジしてみた。

監督は旧ユーゴスラビア連邦共和国サラエヴォ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ領)出身のエミール・クストリッツァ。
僕は迂闊にもまったく知らなかったのだが、世界的には1995年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した名作として評価は高い。

この映画は、オープニングで「昔、あるところに国があった」というテロップが出てきて、エンディングもまた同じテロップで締め括られる。
「国」とはもちろん、監督クストリッツァが生まれ育ち、実質的には1990年代、世界的には2003年に消滅したユーゴスラビアのことを指す。

本作はそのユーゴスラビアで第二次世界大戦中に青春時代を過ごした登場人物たちが、外国との戦争や国内での内紛により、祖国を失ってもなお自らのアイデンティティーに忠実に生きようとする姿を描いている。
物語は1941年4月6日、首都ベオグラードの街を本編の主役コンビ、マルコ(ミキ・マノイロヴォッチ)、ペタル・ポパラ・〝クロ〟(ラザル・リストフスキー)が馬車に乗り、楽隊を引き連れて登場するところから始まる。

当時のユーゴスラビアはオランダなどと同様、ドイツだけでなく連合国からも空爆を受けることがあったらしく、ドカンドカンと街が爆撃されている最中、「連合国のほうがドイツよりヒドイな」というクロのセリフは恐らく、クストリッツァの実体験に根差したものだろう。
このクロのキャラクターはなかなか傑作で、爆撃を受けている最中も椅子に座ったまま食事を続け、妊娠中の女房ヴェラ(ミリャナ・カラノヴィッチ)に怒られながらも愛人の女優ナタリア(ミリャナ・ヤコヴィッチ)の元に駆けつける。

ナタリアがドイツ将校フランツ(エルンスト・シュトッツナー)になびいているとわかると、ナタリアの舞台劇公演中、クロはステージに乱入して即興芝居を見せ、最前列で観劇していたフランツを銃撃。
クロはマルコの手引きによってパルチザンのメンバーになったのだが、やることなすこと、自らの欲望が赴くままで、戦後の映画で描かれてきたようなパルチザン独特の英雄的な雰囲気が微塵もない。

こういうあたりも恐らく、クストリッツァが見聞きしたパルチザンの実像に即しているのだろう。
親友のはずのマルコのほうは、言葉巧みにクロを騙し、地下工場で武器製造と密輸に従事させ、自分は政界に打って出てチトー大統領の側近にのし上がり、ナタリアもクロから奪って自分の女房にしてしまう。

しかし、タイトルのアンダーグラウンド(地下世界)に押し込まれ、ひとり息子ヨヴァン(スルジャン・トドロヴィッチ)とともに武器製造に明け暮れているクロは、マルコの奸計に引っかかり、いいように操られていることにまるで気づかない。
オープニングの1941年から50年間、大戦でユーゴスラビアが勝ったことにも、1991年の国内紛争でユーゴスラビアが消滅したことにも、クロはまったく気づくことなく、「ナチスをやっつけてやるぞ!」と叫んで地下世界の住人たちを鼓舞し続ける。

そんなクロとマルコの関係が、ユーゴスラビアにおける国民同士の亀裂や断層の暗喩となっていることは論を待たない。
マルコの計略は弟イヴァンの飼っていたチンパンジー・ソニが勝手に戦車を動かし、地下世界の壁を砲弾で突き破ったことから破綻、今度は登場人物全員が国内紛争の真っ只中へと放り出されることになる。

こういう自らの経験に根差したユーゴスラビア史を、ファンタジーやコメディの手法を交えて描いているところがクストリッツァならではで、推薦人の品川祐には「やってみたいと思わせるディテールがいっぱいあった」そうだ。
正直、170分はやはり長過ぎると感じたが、ラストシーンは品川が指摘しているように万感胸に迫るものがある。

オススメ度B。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
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スポーツライター。 最新刊は構成を担当した達川光男氏の著書『広島力』(講談社)。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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