『下妻物語』(WOWOW)🤗

102分 2004年 東宝

深田恭子主演作品にはいろいろあるけど、演じた役のハマり具合から言えば、テレビドラマでは『神様、もう少しだけ』(1998年/フジテレビ)、『ファイティングガール』(2001年/同)、映画ではこの『下妻物語』がベスト3ではないかと思う。
とくに『ファイティングガール』では深キョン自身がデザインしたTシャツ、金髪ヘアで登場、気に入らないことをされたら相手が男でもすぐ殴る癖があり、高校の同級生男子に「アイツは全女(全日本女子プロレス)に就職するそうだ」と噂されている、という強烈かつ傑作なキャラクターだった。

本作『下妻物語』はその『ファイティングガール』の直後に撮影された作品で、今度は茶髪に染め直し、頭の天辺から足の爪先までロリータファッションに身を固めて現れる。
その深キョンがレディース暴走族仕様のスクーターをかっ飛ばし、茨城県下妻市郊外の田んぼ脇で軽トラに激突、空中高く跳ね飛ばされてあえなくお陀仏。

…と思ったら、それじゃ映画も終わっちゃうからここで時間を巻き戻しま〜す、と深キョン自らアナウンスして本筋に入る、というオープニングはツカミとしてまことにうまい。
ここから深キョン演じる龍ヶ崎桃子の生い立ちの説明に入り、実は下妻出身ではなく大阪生まれで、父親(宮迫博之)はヤクザ、母親(篠原涼子)は北新地のホステスだったことが明かされる。

父親はベル○ーチ(版権の関係でピー音が入る)のバッタ物を売って稼いでいたが、版元にクレームをつけられて自分の母親(樹木希林)の実家へトンズラ。
母親は桃子を出産した病院の医師(阿部サダヲ)と不倫の関係になって父親と離婚、新しい亭主の家は金持ちだよ、と桃子を説得して引き取ろうとするが、桃子は自分の意思で下妻の父親の元に残る。

その理由は「こっちにいたほうがきっと面白いから」と至って単純かつクール。
桃子は18世紀フランスの貴族文化を席巻したロココの精神を信奉しており、好きなものを着て飲んで食べて、淫らなことをやりたくなったら好きなだけやって、とにかくいつも好き勝手に、面白おかしく生きられればそれでいい、という人生観を実践している女の子だったのだ。

彼女がこだわり続けるロリータファッションはそんなロココの精神を表現しており、気に入ったブランド品の服や靴を買うためなら、下妻から取手まで1時間、取手から代官山までさらに40分、電車に乗ってせっせと有名ショップに通う。
全身ピンクの衣装に身を包み、田んぼの畦道を歩いていて、牛の糞を踏んづけてしまう場面がおかしくてたまらない。

桃子はやがて、行きつけのショップの社長(岡田義徳)に刺繍の腕前を見込まれ、新作の服に刺繍をしてお金を稼ぐようになり、このあたりから人に評価されることの喜びや人生の目標を意識し始める。
この展開は、『ファイティングガール』で深キョン演じる吉田小夜子が、最初のうちはひとりで突っ張っていながら、次第に友だちユン・ソナと始めたデザインの仕事にのめり込んでゆく、という過程とよく似ている。

『ファイティングガール』の小夜子は「あたしは孤独死したいんだ」とうそぶき、『下妻物語』の桃子は「人はひとりぼっちで生きていくもの。友だちなんか必要ない」とクールに言い切るような女の子だった。
それが、自分の才能を認められることに生きがいを見出し、自ら窮地に陥った友だちの力になろうとする、という成長の過程を、深キョンは時に可愛らしく、時にハードボイルドに演じて見せる。

本作で桃子の親友になるレディース暴走族のヤンキー、白百合イチゴを演じるのは土屋アンナ。
彼女がかつての仲間を敵に回し、たったひとりで決闘に臨まなければならなくなったとき、勇躍深キョンが駆けつける、というクライマックスは定石通りだが、最後まで気分よく楽しめました。

この乱闘場面でハタと思い出したのは、昔のゾクやヤンキーはみんな、いつもマスクをしてたということ。
やつらは時代を先取りしてたんだなあって、違うか。

監督・脚本は本作でブレークしたCMディレクター出身の中島哲也。
このあと、『嫌われ松子の一生』(2006年)、『告白』(2010年)と人気女優を起用した傑作を連発するが、最新作の『来る』(2018年)は個人的趣味嗜好が本作の桃子並みに暴走し過ぎていささかスベッていた。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの採録

38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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