『ヒトラー~最期の12日間~』(NHK-BS)🤗

Der Untergang 156分 2004年 ドイツ、イタリア、オーストリア
日本配給2005年 ギャガ 

ナチスに関する取材、研究活動で知られる作家ヨアヒム・フェストの同名著書、及びヒトラーの個人秘書だったトラウドゥル・ユンゲの回顧録を基に、第二次世界大戦末期の1945年4月、ヒトラーが総統地下壕で自決するまでのドラマを多角的視点から描いた作品。
ヒトラーを取り上げた映画は数多あるが、ほとんどが類型的悪役の域を出ず、極端にカリカチュアライズされているケースも多い中、本作の監督オリヴァー・ヒルシュビーゲルは大変生真面目に人間的側面からアプローチをかけ、等身大の実像を浮かび上がらせようとしている。

ヒトラーを演じているのは『ベルリン・天使の詩』(1987年)に主演し、ドイツの国民的俳優として知られるブルーノ・ガンツ(ただしガンツ自身の父親はドイツ系スイス人、母親はイタリア人)。
ガンツの演技は劇場公開当時、国際的な評判を呼び、世界中で様々に模倣され、パロディのネタにもなり、最近も『帰ってきたヒトラー』(2015年)の一部に流用されているという。

ソ連軍、連合国軍がベルリンに近づき、もはや敗戦は必至の情勢となりながら、ヒトラーは額に汗を浮かべ、声を荒らげて部下を無能呼ばわりし、支離滅裂な命令を出し続ける。
その半面、ユンゲ(アレクサンドラ・マリア・ララ)ら女性秘書たちに接する慈愛に満ちた態度は、まるで自分の娘に嫌われまいとオドオドしている小心な父親のようだ。

そうしたヒトラーの複雑な個性に翻弄されるナチスの将校たち、その将校たちを懸命に鼓舞するヒトラーの愛人エヴァ・ブラウン(ユリアーネ・ケーラー)、さらにはその双方の人間模様を側で陰で眺めながら鼻で笑っている周囲の軍人たちや女性秘書たちの群像も大変きめ細かく描かれている。
ベルリンの街では凶暴化したナチスの兵隊に罪もない市民が次から次へと殺されている一方、総統地下壕にはもはや敵国に抵抗する気力を失い、自暴自棄になって赤ワインをあおっている軍人たちもいた。

そこまで追い詰められ、内心ではナチスを見限っていても、ソ連軍の包囲網をかいくぐり、ヒトラーの下へ駆けつけたグライム空軍元帥(ディートリッヒ・ホリンダーボイマー)、ライチュ空軍パイロット(アンナ・タールバッハ)らは最後まで軍人としての本分を尽くそうとする姿勢を崩さない。
クライマックスでは、ヒトラーとブラウンの心中的自決以上に、6人の子供に毒を含ませて道連れにしたゲッベルス宣伝相(ウルリッヒ・マテス)、妻マクダ(コリンナ・ハルフォーフ)の最期が印象に残った。

このように、ヒトラーをはじめ、とかく非人間的な側面ばかり強調されてきたナチスの軍人たち(ひいては当時のドイツ人たち全員と言ってもいい)の人間臭い一面を描いているのが本作の大きな特長である。
最後は秘書のユンゲがヒトラー・ユーゲントの少年とともに自転車に乗ってベルリンを脱出、エンド・クレジットの前にオープニングにも出てきた実在のユンゲ本人のインタビュー映像が出てくる、という幕切れも後味がいい。

ただし、実際にはそのユンゲの父親は熱心なナチス支持者で、彼女の夫ハンスも親衛隊(SS)の将校だった、という事実を知ると、本作をいたずらに礼賛もできない。
また、ユダヤ人強制収容所で大変残虐な人体実験を行ったと言われる親衛隊のシェンク医師(クリスチャン・ベルケル)が非常に人道的な人物として描かれている点など、史実と異なる部分が多いことも厳しく批判されている。

それでも、映画史的価値を認めてお勧め度はA。 

旧サイト:2016年08月18日(木)付Pick-upより再録

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

21『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
20『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
19『大脱出2』(2018年/中、米)D
18『大脱出』(2013年/米)B
17『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
16『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
15『グリーンブック』(2018年/米)A
14『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
13『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
12『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
11『前科者』(1939年/米)C
10『化石の森』(1936年/米)B
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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