『炎の人ゴッホ』(NHK-BS)😉

Lust for Life 122分 1956年 アメリカ=MGM 日本公開:1957年

去る5日、103歳で亡くなったカーク・ダグラスが2度目のアカデミー主演男優賞にノミネートされた作品。
オランダの大画家ゴッホの生涯を描いた堂々たる文芸大作で、ダグラスは自伝『くず屋の息子』(早川書房/1989年)で本作に1章を割き、撮影終了後もしばらくゴッホが自分の中から出て行かなかった、と吐露している。

冒頭、尊敬する父と同じ牧師になろうと伝道師の試験を受けて失格、それでも聖職者への道を諦めきれず、懸命に努力を重ねるゴッホの姿が描かれる。
担任教師の温情でベルギーの炭鉱町ボリナージュに赴任すると、ゴッホは坑夫たちと同じ生活をしなければ救いを与えられないと主張し、藁のベッドで寝起きするほどの貧乏暮らしを自らに強いる。

そんな極端なまでに純粋な姿勢が「教会の名を汚す」として牧師たちの不興を買い、職を解かれ、弟テオ(ジェームズ・ドナルド)にオランダ北部エッテンの実家へ連れ戻される。
ここで絵に打ち込むようになったころ、従姉妹の未亡人で子持ちのケー(ジャネット・スターク)に激しい恋心を抱き、手痛い拒絶に遭う。

逆上したゴッホはアムステルダムのケーの実家まで押しかけるが、ここでも彼女の両親が会わせてくれない。
ケーの父親(ウィルトン・グラフ)に「軟弱者」と罵られたゴッホは、ロウソクの火で自分の手のひらを炙り、「これでも軟弱者ですか。私がこうしている間にケーに会わせてください」と言い募る。

打ちひしがれて立ち寄った酒場で子持ちの娼婦クリスティナ(パメラ・ブラウン)と知り合い、一緒に暮らすようになったものの、この同棲生活も間もなく破綻。
そんな私生活での不幸をすべて創作活動のエネルギー源にしたかのように、ゴッホは絵画に没頭してゆく。

ゴッホといえば、偏狭で激情家だった印象が強いが、絵に関しては大変研究熱心で、様々な技法を貪欲に採り入れていた。
とくに日本の浮世絵を高く評価しており、印象派のスーラ(デヴィッド・ボンド)に色の使い方を教わるくだりなど、実に興味深い。

最大の見どころは晩年、ポール・ゴーギャン(アンソニー・クイン)とともに送ったアルルでの共同生活。
勉強家のゴッホがドガやミレーを「人間の営みを描いた素晴らしい画家」だと主張すると、先鋭的なゴーギャンは「ミレーなんかカレンダー画家だ、ドガは踊り子を追いかけているだけだ」と痛烈に批判、あげく大喧嘩に発展してしまう。

そんなゴーギャンとの諍いの直後、有名な「耳切り事件」を起こして町中の評判になり、ゴッホはますます心の病(統合失調症だったという説もある)が悪化。
晩年は自ら精神病院への入院を望んでいたことも、この映画を見て初めて知った。

ゴーギャン役のクインはアカデミー助演男優賞を受賞。
主演男優賞にノミネートされたダグラスが落ちてしまったのは、やはりオスカー候補に挙がった『チャンピオン』(1949年)(1949年)と同様、ヒステリー状態に陥る演技がいささか一本調子に見えるからかもしれない。

ダグラスは当時37歳で、奇しくもゴッホが亡くなったのと同じ年齢であった。
しかし、そういう事実を知らなければ、40代後半から50代前半としか思えないほど老けて見える。

オススメ度B。

(旧サイト:2017年7月10日付Pick-upより再録)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し

10『チャンピオン』(1951年/米)B
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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