ラグビーワールドカップ準決勝はプール戦とココが違った

今回の席は東側ゴールポスト近くの前から11列目

自分でも意外なほどハマったラグビーW杯、観戦できるのも残り2試合。
きのうは横浜国際総合競技場(日産スタジアム)へ準決勝・ウェールズ−南アフリカ戦を観に行ってきました。

たまたま取れたチケットは70000円のカテゴリーA、E-15ゲート(東側北寄り)の前から11列目。
日本が南アフリカに勝っていれば生観戦できたんだけれど、この組み合わせでも貴重な体験だったことは間違いありません。

キックオフ2時間前に入場して早速ハイネケンを1杯

5日東京スタジアムのイングランド−アルゼンチン戦、9日熊谷ラグビー場のアルゼンチン−アメリカ戦もそうだったように、日の当たるうちにこのあたりの席に座るとまだまだ暑い。
そこで、この時間から営業を始めている売り子さんに声をかけ、ビールを飲みながらお客さんの入りなどを取材。

ただし、ビールは毎回この1杯だけで、試合開始前にしっかり排出しておく。
というのも、キックオフ1時間前ぐらいから男子用トイレに長蛇の列ができ、これが時間が経つにつれてどんどん伸びていくから(女子トイレはそれほどでもないそうです)。

とくにこの日は、ハーフタイムに用足しに立ったお客さんが、「行列が外まで伸びているから諦めた」と言って戻ってきたほど。
試合後には、南アフリカのジャージを着た外国人は堂々と外の灌木に立ちションしていて、その光景を背後からスマホで〝盗撮〟している日本人もいました。

このスタジアムが誇る955インチのフルハイビジョン大型映像装置
試合開始前、黙祷に続いて国歌斉唱

決勝トーナメントでは会場の演出もバージョンアップ。
試合前には英語をしゃべる男性、日本語の女性と2人のMCがピッチに登場し、南北両サイドにある955インチの大型映像装置から「盛り上がっていきましょう!」と、元気よく呼びかける。

キックオフの瞬間と点が入った直後には、ゴールポストの後ろから本物の炎が勢いよく噴き上がる。
前列11列目だと、この炎の熱気が十分に感じられました。

前半39分、ウェールズWTBジョージ・ノース(左側赤のジャージ)が負傷で交代

しかし、試合はこれまでに観戦したプール戦とは打って変わって、非常に静かで重い展開からスタート。
南アフリカがSH(スクラムハーフ)ファフ・デクラークを中心に、ハイパントで攻勢をかけるも、ことごとくウェールズの固いディフェンスに阻まれる。

南アフリカはプール戦最終戦からノックオンなどの反則も多く、フィジカルに物を言わせた自分たちの流れに持ち込めない。
正直、49−3と完勝したイタリア戦(4日静岡・エコパスタジアム)とは別のチームのようにも見えた。

もっとも、これがウェールズの力によるものか、決勝トーナメントはプール戦とは作戦や戦略が異なるためなのかはわからない。
このあたりがしょせん〝にわか〟の悲しさ。

ただ、素人考えだけど、ここまで1カ月5試合を戦い抜いてきた疲れもあるんじゃないだろうか。
前半39分には、キックパスをキャッチしようとしたウェールズWTB(ウイング)ジョージ・ノースが、落下地点に入る直前、右足に腓返り(太腿肉離れか)を起こしてダウン。

ある意味、こういう場面が目の前で見られるのも、前の席のいいところだな、と思っていたら、そばのお客さんが「陸上用のトラックがないラグビー場やったら選手の呻き声が聞こえるのになあ、花園みたいに」。
スポーツファンは残酷ですね、〝にわか〟でない人ほど。

前半はどちらもノートライのまま、9−6と南アフリカの3点リードで終了。
このまま膠着状態が続くのかなと思ったら、後半からガラリと様相が変わった。

後半36分、南アフリカSOハンドレ・ポラード(ハイネケンの看板の左側)がペナルティゴール

陣地が入れ替わり、ぼくの目の前がウェールズ陣地となった後半16分、南アフリカが懸命にオフロードパスをつないで激しく前進。
私も含めてスタンド中が大声をあげている中、CTB(センター)ダミアン・デアレンデがウェールズの選手4人を引きずるようにしてトライを決めた。

この場面は盛り上がった。
周りの南アフリカ人ファンはみんな立ち上がって大騒ぎ。

これで16−9と南アフリカが7点リードしていた後半19分、さらに場内を興奮させるドラマが起こる。
ウェールズが敵陣10メートルライン付近で得たペナルティーで、LO(ロック)の主将アルンウィン・ジョーンズがペナルティーゴールではなくタッチキックを選択。

このとき、ジョーンズの顔が大型映像装置に映し出されると、その決然とした表情にスタンドからどよめきが上がる。
ここから持久戦というか消耗戦というか、観ていて息が苦しくなるようなFW(フォワード)戦に持ち込み、ゴール前5メートルまできて再度ペナルティーを獲得。

ジョーンズはなんと、ここでもペナルティーゴールで確実に3点を取りに行くのではなく、分の悪いスクラムを選んだ。
スタンドのあちこちから「勝ちにいってるぞ!」「いけいけ!」という声援が盛り上がり、場内はものすごいウェールズコール。

後半24分、ウェールズがスクラムから左へ展開すると、WTBジョシュ・アダムズがインゴールに駆け込んでトライ。
ベテランのFB(フルバック)リー・ハーフペニーのコンバージョンゴールも決まり、ついに同点に追いついた。

いったい、どうなることかと思った大熱戦は、残り5分の後半36分、南アフリカSO(スタンドオフ)ハンドレ・ポラードのペナルティーゴールで決着。
しかし、勝者は南アフリカでも、試合を盛り上げた〝主役〟は間違いなくウェールズだった。

さすがはティア1(強豪10の国と地域)同士の決勝トーナメント戦、彼らが後のない決戦で激突する勝負はレベルも迫力も違う。
ラグビーは奥が深い、と改めて感じた好ゲームでした。

試合後はウェールズ、南アフリカの順に、四方向にお辞儀をしながらピッチを一周
スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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