『獄門島』(NHK-BS)

141分 1977年 東宝

石坂浩二主演、市川崑監督のコンビによる横溝正史ミステリ、金田一耕助シリーズの3本目。
前作『悪魔の手毬唄』が1977年4月2日に公開されてから僅か4カ月余り、同年8月27日に封切となっている。

ヒットが確実だから前作の撮影終了後にすぐ製作を開始したのか、それとも前作を撮っている最中に同時進行で作り始めていたのか。
いずれにせよ、金田一役の石坂浩二をはじめ、加藤武や坂口良子など常連の俳優が多いし、コスチュームも同じなので、掛け持ちは容易だったはず。

終戦翌年の昭和21年、金田一は友人の依頼により、戦地でマラリアにかかって死んだ鬼頭千万太(ちまた=武田洋和)の遺筆を遺族に渡すため、瀬戸内海の獄門島にある鬼頭家を訪ねる。
瀬戸内海は江戸時代まで海賊が跳梁跋扈し、そこに浮かぶ獄門島は当時罪人たちが流刑や打ち首に処せられた歴史を持つ島だった。

島は豪奢な邸宅を構える鬼頭家が牛耳っており、本家の「本鬼頭」に対し、分家の「分(わけ)鬼頭」が秘かに本家の家督を相続しようと、水面下で骨肉の争いを繰り広げていた。
本鬼頭の当主・与三松(内藤武敏)は気が触れて屋敷の座敷牢に入れられており、分鬼頭の娘で千万太の従妹・早苗(大原麗子)が面倒を見ている。

事実上、当主も跡取りも失った本鬼頭を仕切っているのは菩提寺・千光寺の了稔和尚(佐分利信)で、屋敷に仕えている女中が勝野(司葉子)。
分鬼頭の嫁・巴(大地喜和子)は本鬼頭の家督と財産を狙っており、自宅に居候させている役者・鵜飼章三(ピーター)に本鬼頭の娘3人、千万太の妹たちを口説かせ、結婚させようとしているらしい。

そうした肉親同士の暗闘を懸念してか、千万太は戦地で病没する寸前、「自分が死んだら3人の妹たちの命が危ない」と、金田一の友人に言い残していた。
その妹たち、長女・月代(浅野ゆう子)、次女・雪枝(中村七枝子)、三女・花子(一ノ瀬康子)がまた頭のイカれた娘ばかり。

この設定の背景に、閉鎖的な島民同士で同族結婚や近親相姦が繰り返されてきたことが暗示されている。
父親がキチガイなら娘たちもまたキチガイというわけで、実際に了稔が口にする「きちがい」(実は「季違い」=季語の間違い)という言葉が、のちに起こる連続殺人事件のトリックを解く重要なキーワードにもなっている。

かくして、金田一が鬼頭家に現れて以来、千万太の妹たち、三女・花子、次女・雪枝が次々に殺され、無惨な死体となって晒される。
とりわけ凝っているのが雪枝の殺し方で、絞殺死体を海辺に置かれた釣鐘の下に隠しておき、金田一と鬼頭家に仕える竹蔵(小林昭二)が梃子で鐘を押し上げ、死体を引っ張り出そうとすると、梃子が折れて釣鐘が落ち、切断された雪枝の首が海まで飛ばされるのだ。

犯人が誰かは中盤である程度明かされるため、謎解きの興味は薄く、しかも犯人の動機に不明な部分があって、完成度はシリーズ中最も低い。
しかし、昔の日本的ムラ社会におけるキチガイの存在を生々しく示している、という意味では、いまや貴重な作品かもしれません。

そういう意味では、精神病者に対する差別的表現や放送禁止用語にうるさいNHKが、衛星放送とはいえよくこの時代に本作を放送したものだと思う。
実際、本作以降に同じ原作をリメイクした映画やテレビドラマなどでは、当然のように「きちがい」というセリフをカットして作り直しているそうだから。

オススメ度C。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*)  B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?)  D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し

107『悪魔の手毬唄』(1977年/東宝)C
106『犬神家の一族』(1976年/東宝)B
105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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