『犬神家の一族』(NHK-BS)

146分 1976年 東宝

1970年代後半から1980年代後半にかけて一斉を風靡した角川映画の第1弾。
テレビ、雑誌に大量の広告が打たれた劇場公開当時は、プロデュース過剰でオチも筋書きもネタバレしてしまったが、配収15億6000万円の大ヒットとなった。

内容的にも高く評価され、報知映画賞の作品賞を受賞し、1976年のキネマ旬報ベストテン第5位、同読者投票第1位に選出されている。
毎日映画コンクールの音楽賞を獲得した大野雄二の主題曲はミステリ映画のスタンダードナンバーになった。

ぼくが本作を初めて観たのは劇場公開から2年後の78年、『月曜ロードショー』(TBS系)でテレビ初放送されたときだったと思う。
そのときは結構退屈に感じた記憶があるが、先日NHK-BS〈プレミアムシネマ〉で放送されたノーカット版を改めてじっくり鑑賞したところ、意外にもなかなか面白かった。

昭和22年2月、那須市に製薬会社を興した信州財界の大立者・犬神佐兵衛(三國連太郎)が81歳で他界。
巨万の富を相続するため、それぞれ母親の異なる3人の娘、松子(高峰三枝子)、梅子(草笛光子)、竹子(三条美紀)と孫たちが集められる。

3人の孫のうち、指定された日から15日も遅れてやってきた佐清(あおい輝彦)は、ビルマ戦線から復員したばかりで、白いゴムのマスクをかぶっている。
弁護士・古館恭三(小沢栄太郎)が遺言状を読み上げる前、母の松子と佐清にマスクを取るよう要請すると、その下の顔は醜く焼け爛れていた。

遺族たちが悲鳴をあげるこの有名な場面のあと、古舘が遺言状を朗読。
その内容は、佐兵衛の生涯の恩人・野々宮大弐(那須清)の孫娘・珠代(島田陽子)に、佐兵衛の孫息子・佐武(地井武男)、佐智(川口恒)、佐清(あおい輝彦)のいずれかと結婚することを条件として、全財産を譲るというものだった。

血縁関係にない小娘に全財産を奪われるかもしれないと知った娘たち、孫たちは一斉に猛反発。
この直後から、佐兵衛の遺産をめぐって、肉親同士のおどろおどろしい殺人劇が繰り広げられる。

ゴムマスクの人物が佐清ではなく、かつて犬神家に虐げられた青沼静馬だった、というところが謎解きのキモなのだが、いま観るとこれはおかしい。
周囲の親戚縁者が騙されるのは許容できるとしても、途中まで母親の松子が気づかなかった、というのはいくら何でも無理がある。

どんなに顔がグチャグチャに潰れているとはいえ、背格好や身体の特徴を見れば、実の母親ならすぐに別人だとわかるはず。
最初の段階で松子があえて静馬の計略に乗り、犬神家を乗っ取ったところで静馬を殺すつもりだった、というのならまだ納得できるのだが。

と、内心でツッコミを入れながらも、最後まで面白く観られたのは、ちょうど脂が乗り切っていたころの市川崑作品だからこそか。
金田一耕助役の石坂浩二、渦中のヒロイン・島田陽子、彼女のボディーガード・猿蔵役の寺田稔、弁護士役の小沢栄太郎、それに何くれとなく金田一の面倒を見るホテルの女中・はる役の坂口良子まで、俳優たちの好演も印象に残る。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*)  B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?)  D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し

105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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