『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(NHK総合、BS)

49分 2019年 NHK広島放送局

NHK広島放送局が今年の「原爆の日」に合わせて製作した短編アニメ3本のオムニバス番組。
広島の被爆者から募集した手記2200通の中から、愛する家族や友人に続いて綴られた作品3通をアニメ化したもので、8月8日BS1、同月10日総合で放送された。

収録されている作品は『ヤマンへの手紙』(タイトル画像右下=10分)、『あなたがいて、私がいて、』(同中央=5分)、『父とのわかれ』(同左下)の3本。
それぞれの作品ごとに、アニメーターたちが被爆者の手記を読んで何を思い、どのようにして作品化しようとしたのか、その過程と葛藤を追ったメイキング・ドキュメンタリーがついている。

最も本格的な作品は巻頭の『ヤマンへの手紙』。
昨年日本アカデミー賞を受賞した『若おかみは小学生!』の監督・高坂希太郎がキャラクターデザイン、撮影・VFX担当の加藤道哉が監督を務めている。

昭和19年春、広島の女学校を卒業した語り手・山本(旧姓:鳥居)真理子が、就職した陸軍第五師団司令部で山下みよ子、通称「ヤマン」と知り合う。
鳶色の瞳、栗色の巻き毛、透き通るような白い肌、何より人懐こい性格がとても魅力的なヤマンは、真理子にとってすぐに職場で一番の親友になった。

仕事が引けたあと、ふたりして映画を観に行く場面がいい。
戦時中までは、相生橋を渡った先の中島本町に映画館があったんですね。

そして、真理子が眼疾のために休暇を取り、実家で母親と朝食を食べようとしていたとき。
ちょうどヤマンが陸軍司令部へ出勤した8月6日朝、彼女の頭上、澄み渡った青空で原爆が炸裂する。

山本さんが書いた手記、400字詰原稿用紙18枚のうち、最後の5枚に被爆後3日で死に至ったヤマンの最期が詳細に書かれていた。
が、これをそのままアニメにしていいものかどうか、加藤は悩む。

「アニメの場合は絵の暴力性が出てしまうことがある。
それではかえって、(原爆の恐ろしさや被爆者の心情など)伝えるべきことが伝わらなくなってしまう」

だからヤマンの最期の姿は描くまいと決心しながら、原爆資料館で被爆者の写真や遺留品を目の当たりにした加藤は、ここで激しく揺れ始める。
もしかしたら、山本さんはヤマンの死の実相を伝えたいのかもしれない、それを自分があえてカットすることは許されるのか、と。

『あなたがいて、私がいて、』は、胎内被爆した川本初美の手記を東北出身のアニメーション監督・小野ハナがアニメ化した作品。
川本さんの母・富子は嫁ぎ先の加古町(ぼくの母方の親戚がいる)から実家のある楠木町へ路面電車で向かっている最中、被爆した。

実家は原爆で吹き飛ばされてしまったため、富子は長束(ぼくが高校時代まで暮らしていた)で8月17日に初美を生む。
今時のアニメらしくない素朴でほのぼのとした絵が、かえって被爆直後の出産がいかに大変だったかを想像させ、味わい深い作品となっている。

メイキング・ドキュメンタリーで、川本が小野に見せる富子の写真が大変印象的。
セピア色の写真の中で微笑んでいる富子は丸々と太っていて、いかにも日本のお母さんという印象を与えるが、晩年は原爆症のためか、がんや糖尿病を併発し、入退院を繰り返しながら亡くなったという。

最後の『父とのわかれ』は、5歳で父・一を亡くした廣中正樹の手記を、広島市立大学4年の黒木香那が大学の課題としてアニメ化した作品。
このパートだけは作品よりメイキング・ドキュメンタリーが先で、黒木が廣中に会い、彼女にとって被爆者の告白を直に聞くのは初めての経験だったことが説明される。

被爆して帰宅後、父の遺体をリヤカーで集団火葬場に運び、廣中が母に促され、自らマッチで火を点ける。
「そういうときに人がどういう表情をするか、私には想像できない」という黒木の言葉がそのまま反映されたような絵だったことが、かえって印象に残った。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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