〝熊谷インパクト〟至近距離で見たラグビーワールドカップ

午前11時45分、開場の時刻には長蛇の列

ラグビーW杯プール戦、観戦4試合目はきょう、熊谷ラグビー場で行われたプールC・アルゼンチン−アメリカ戦。
「死の組」と呼ばれたこのグループはすでにイングランドとフランスが決勝トーナメント進出を決めていて、きょう対戦した両チームは1次リーグ敗退が決定済み。

それでも、この試合にはプールCの3位確保、つまり次回の2023年W杯フランス大会のシード権がかかっている。
トンガから1勝をもぎ取っているアルゼンチンとしては、ここでアメリカから2勝目を挙げて3位を確定させたい。

キックオフが午後1時45分、会場がその2時間前の午前11時45分。
熊谷は試合会場が駅から徒歩で小一時間と遠いのが難ですが、11時には早くも駅前のファンゾーンのそばに無料シャトルバスが何台もズラリ。

これが国際興業の地元路線バスで、15分ほどでラグビー場に到着。
非常にスムーズ、かつキビキビした運営ぶりで、帰りも大変助かりました。

1列目ではしゃぎ気味?のA先生。右手のスタンド左下、及び上方はほとんど小学生

きょうの席はセンターからほんの少し西寄りの最前列。
しかもラグビー専用の熊谷ラグビー場だから、ピッチの周囲に陸上競技用のトラックがなく、文字通り目と鼻の先でプレーを見ることができる。

この日は修学旅行の一環なのか、小学生の団体が多く、アルゼンチンとアメリカの旗を懸命に振り回していた。
これまでに足を運んだ中では、最も微笑ましい光景でしたね。

この日1杯目のハイネケン、1杯700円

しかし、日除けになるものがなく、一番暑い盛りの時刻に行われるとあり、座っているだけで汗がダラダラ。
さっそくビールの売り子さんに声をかけて700円のハイネケンを1杯。

なお、スタンドで売っているハイネケンは缶のため、売り子さんたちが売り歩いている間に若干ぬるくなっています。
コンコースのドリンクバーではキンキンに冷えたビールを出してくれるけど、こっちは1000円もするんだよな。

売り子さんは地元の女の子たちかと思ったら、そうでもないらしい。
2杯目を買った売り子さんに聞いたら、「きょうはふだん神宮や横浜(球場)で売り子をやってる子たちが来てるんです」。

アメリカは試合前にビブスで色分けしたミニゲームをやっていた

試合前1時間を切ったころになると、両チームの選手がグラウンドに出てきて練習を開始。
ぼくの席からは向かって左側がアメリカで、こちらの目の前、ほぼ真正面でスクラムやラインアウトの練習を行うのだから、これだけでも結構迫力があった。

国歌を歌うアメリカの選手たち

国歌斉唱はこれまで、選手たちに背中を向けられる席だったのが、これも今回は真正面から見られました。
このときは、ぼくや小学生たちも含めて、たどたどしいながらも懸命に唱和しているお客さんが多かった。

なぜ歌えるのかと言うと、熊谷駅前、シャトルバス乗り場、ラグビー場などで、地元のボランティアの方々が、両国国家の歌詞をプリントしたものを配っていたから。
両面にそれぞれの国歌の歌詞が原語で書かれていて、その下にカタカナで読み仮名がふってあり、これはなかなかいいアイデアだったと思います。

世界ランキングはアルゼンチンが10位、アメリカが13位。
だから、アメリカの攻撃がハマればフランス−アルゼンチン戦ぐらいもつれる好ゲームになるのでは、と予想したんだけれど、そう甘くはなかった。

前半18分、アルゼンチンSO(スタンドオフ)ニコラス・サンチェスが先制トライ&コンバージョンゴールを決め、FB(フルバック)ホアキン・トゥクレの2トライ、サンチェスの1ゴールで畳み掛け、早くも押せ押せムード。
アメリカも前半終了間際、WTB(ウイング)ブレーン・スカリーのトライで一矢報い、19−7で折り返したあたりまではまだわからないと思ったんだが。

後半3分と8分、アルゼンチンはCTB(センター)フアンクルス・マリアの2トライ、サンチェスの2ゴールで一挙14点、33−5と大量リードを奪う。
目を見張ったのは後半15分、ぼくのすぐ目の前でアルゼンチンがスピーディーなパス回しを見せ、CTBヘロニモ・デラフエンテが鮮やかなトライを決めた場面。

これだけの至近距離であれだけのプレーを見られれば、これだけでも十分に最前列に座っていた価値はあったと思う。
決して大袈裟ではなく、9月21日にフランスのSOカミーユ・ロペスが放った再逆転ドロップゴールと同じくらい、しばし陶然とさせられた。

アメリカも後半19分、序盤の頭部負傷から試合に復帰したCTBポール・ラシケが執念のトライ。
スタンドから大きな「USAコール」が起こったものの、すでに40−10と大差がついていてはどうしようもなかった。

勝ったアルゼンチン選手がつくった花道の間を通ってゆくアメリカ選手たち

試合終了後は、最初にアメリカ、次にアルゼンチンが花道をつくり、その間を選手たちが歩いて健闘を称え合っていました。
アメリカの選手たちは東西南北と、四方向のスタンドの前で立ち止まり、深々とお辞儀。

ファンの投げ入れたスマホで自撮りをしているマティアス・モロニ

そのあと、スタンドの前までやってきたアルゼンチンの選手たちはサインのファンサービス。
ファンが投げ入れたスマホで、そのファンがいるスタンドが映り込むように自撮りをしている選手もいました。

選手もファンも慣れたものだったから、ラグビーの世界では定番のファンサービスなんでしょうか。
おれも今度、選手にリクエストしてみようかな。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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