『マザー!』(WOWOW)

mother!
115分 2017年 アメリカ=パラマウント・ピクチャーズ 日本劇場公開中止

不愉快で後味の悪い〝厭な映画〟には一定の市場とそれなりの歴史があり、映画ファン雑誌〈映画秘宝〉からも別冊映画秘宝『厭な映画』(2015年/洋泉社)というムックが出ているほど。
このジャンルの源流は文学にあるようで、わが国では文春文庫のアンソロジー『厭な物語』(2013年)、『もっと厭な物語』(2014年)で古今東西の傑作短篇を読むことができる。

それだけ〝厭な作品〟をある程度知っていて、耐〝厭〟性があるおれでも、この映画だけは観ていて本当に、マジで厭になった。
何度も途中で観るのをやめようと思いながら、それでも完成度だけは高いものだから、ついつい最後まで観てしまい、さらにイヤな気分になった。

監督のダーレン・アロノフスキーは年老いたプロレスラーの人生を描いた『レスラー』(2008年)、バレリーナの異常心理に肉迫したサイコサスペンス『ブラック・スワン』(2010年)を撮った才人。
彼がジェニファー・ローレンス、ハビエル・バルデムと組んだ映画なのだからさぞかし面白いに違いない、と思ったらとんでもなかった。

片田舎で暮らす作家夫婦(バルデムとローレンス)の一軒家に、医者を自称する年老いた男(エド・ハリス)がやってきて、民宿と間違えた、咳が止まらない、などと言い募る。
人の好いバルデムが泊まって行くように勧めると、ハリスはくわえタバコでニヤニヤしながら自分のザックを持ち込む。

ローレンスが「私たちはタバコは吸わないのよ」と注意したら、「ああ、こりゃ悪かった」とヘラヘラ笑いながら吸い差しをドアの外へポーン。
もう、このツカミからしてイヤでイヤでたまらない。

翌朝、今度は男の妻(ミシェル・ファイファー)がやってきて、キッチンで勝手にアルコール入りのレモネードをつくり、グビグビやりながら家の中を探って回る。
彼女がバルデムの書斎に勝手に入らないように注意すると、「あんた、子供は? 亭主とはヤッてるの?」。

そこへ、ハリス&ファイファーの息子ふたりがやってきて、弟が母親に溺愛されていることを妬み、兄が食ってかかって大ゲンカに発展。
兄が誤って弟を殺してしまい、その葬儀がバルデムの家で営まれることになるのだが、集まってきた連中は酔っ払ってローレンスにからむわ、夫妻の寝室でセックスしようとするわ、あげくにリフォーム中のキッチンを壊してしまうわ。

この前半だけでも十分厭なお話なのに、後半はさらに残酷で、惨たらしく、救い難い展開が待っている。
とりわけ、ローレンスが念願の子供を妊娠してからがあまりにひどい。

キャラクター設定はキリスト教の旧約聖書が下敷きになっているそうで、バルデムとローレンスはアダムとイヴ、ケンカから殺人に発展する兄弟はカインとアベルに相当するという。
しかし、そういうアロノフスキーの意図がわかっても、これはこれで立派な文芸作品なんだな、と感心する以前に、もううんざりだ、早く終わってくれ、という嫌悪感のほうが先に立つ。

本作はファン投票で順位が決まるアメリカの映画格付けサイト、シネマスコアで最低ランクのFをつけられ、日本では劇場公開中止となった。
それだけ嫌悪感を募らせる見せ方に徹しており、そういう意味では完成度が高いのも確かだが。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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