『車椅子のヒーロー あの名俳優クリストファー・リーブが綴る「障害」との闘い』クリストファー・リーブ

Still Me
徳間書店 381ページ 翻訳:布施由紀子 第1刷1998年11月30日 定価1800円=税別 
原著発行1998年 

『スーパーマン』(1978年)で一斉を風靡したクリストファー・リーヴは42歳だった1995年、乗馬中の事故で第1頸椎を骨折し、首から下が完全に麻痺した状態となった。
手足を動かせないだけでなく、息をするにも人工呼吸器が必要で、介護士の手を借りなければ生きていくことができない。

口述筆記によるこの自叙伝は、最初のページを開いてからしばらく、自分がなぜこのような身体になったのか、家族や友人にどれほど助けられたか、寝たきりになったばかりのころはいかに辛かったか、切々と綴った独白に占められている。
やがて、徐々に精神的に立ち直ったリーヴは、自分と同じ脊椎損傷によって不自由な身体になった人たちのため、自分の名前を冠した基金を創設。

この基金を脊椎損傷の医学的研究に役立てれば、脊椎損傷に悩む多くの人たちの助けになるのはもちろん、いつかは自分もまた自分の足で立てるようになるかもしれない。
そう考えたリーヴは、この分野の医学的研究にもっと国家予算を投じるべきだと、様々な機会を通じて政界や医学会に向かって訴えるようになる。

そうした再起に向けての歩みの合間に、リーヴの俳優としての半生、『スーパーマン』をはじめとするヒット作の内幕が語られる。
下積み時代から一番の親友だったのが国民的コメディアンとして知られたロビン・ウィリアムズで、舞台で共演したキャサリン・ヘップバーンに見出されてスターダムへ駆け上がるきっかけをつかんだ、というくだりが興味深い。

リーヴ自身はもともと古典劇志向の強い俳優だったのが、『スーパーマン』の大当たりでアクション映画のオファーばかり受けるようになり、頭にきて次々とエージェントをクビにする。
あげく、意に染まない『スーパーマン4 最強の敵』(1987年)に出演せざるを得ず、これが大失敗。

ハリウッドの大手プロダクションからまったく声がかからなくなり、映画界から見捨てられたも同然の状態になってしまった。
リーヴが落馬事故によって四肢麻痺の状態になったのは、そんな不遇の時代に入ってから8年後のこと。

しばらく打ちひしがれていたのち、家族や友人の支えを得たリーヴはやがて、脊椎損傷の治療法発見に尽力することに新たな生きがいを見出す。
そして、第8章では新たな悟りを得たかのように、「私はまだスーパーマンだ」と書く。

スーパーマンとして有名になったころのリーヴは、「ヒーロー」像とはどのようなものかと聞かれると、「先のことを考えずに勇気ある行動を取る人のこと」と答えていた。
しかし、四肢麻痺となってからは、「ヒーローとはどんな障害に遭っても努力を惜しまず、耐え抜く強さを身につけたごく普通の人ことだ」と言うようになる。

ここで本が終わっていれば大変感動的だったろう。
が、最終章「いまを生きる」は、やはり身体が不自由なままでいるのはつらい、とくに介護士の手を借りる排泄で感じる屈辱にはいつまでも慣れることがない、という実に生々しい告白で締め括られている。

リーヴの身体障害者に対する活動は高く評価され、2003年にはメアリー・ウッダード・ラスカー公益事業賞という国際的医学賞を受賞している。
しかし、翌04年には心不全を起こし、四肢麻痺となってから10年、52歳という若さでこの世を去った。

06年に公開された『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』はリーヴに捧げられている。
彼が自分の目であの作品を観ることができれば、改めてリーヴ自身の「スーパーマン論」を聞いてみたかった。

2019読書目録
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

22『ベストセラー伝説』本橋信宏(2019年/新潮社 新潮新書)
21『ドン・キホーテ軍団』阿部牧郎(1983年/毎日新聞社)※
20『焦土の野球連盟』阿部牧郎(1987年/扶桑社)※
19『失われた球譜』阿部牧郎(1998年/文藝春秋)※
18『南海・島本講平の詩』(1971年/中央公論社)※
17『カムバック!』テリー・プルート著、廣木明子訳(1990年/東京書籍)※
16『ボール・フォア 大リーグ・衝撃の内幕』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1978年/恒文社)
15『ショーケン 最終章』萩原健一(2019年/講談社)
14『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
13『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
12『試合 ボクシング小説集』ジャック・ロンドン著、辻井栄滋訳(1987年/社会思想社 教養文庫)
11『ファースト・マン 月に初めて降り立った男、ニール・アームストロングの人生』ジェイムズ・R・ハンセン著、日暮雅通・水谷淳訳(2019年/河出文庫)
10『平成野球30年の30人』石田雄太(2019年/文藝春秋)
9『toritter とりったー』とり・みき(2011年/徳間書店)
8『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』津田大介(2009年/洋泉社)
7『極夜行』角幡唯介(2018年/文藝春秋)
6『力がなければ頭を使え 広商野球74の法則』迫田穆成、田尻賢誉(2018年/ベースボール・マガジン社)
5『OPEN アンドレ・アガシの自叙伝』アンドレ・アガシ著、川口由紀子訳(2012年/ベースボール・マガジン社)
4『桜の園・三人姉妹』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
3『かもめ・ワーニャ伯父さん』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
2『恋しくて』リチャード・フォード他、村上春樹編訳(2016年/中公文庫)
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』ティム・オブライエン他著、村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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