〝小さな大魔神〟山崎康29セーブ目の思い出

今朝の日刊スポーツ2〜3面。2面には山﨑康の手記が掲載されている。

ゆうべ横浜スタジアムで行われたカープ戦で、〝小さな大魔神〟山崎康が通算150セーブをマークした。
プロ野球15人目の大記録で、26歳9カ月での達成は史上最年少。

今朝の日刊スポーツは2〜3面の見開きで山崎康の快挙を大きく報じている。
この記事を読みながら、ふと思い出したのが、彼がまだ新人だった2015年、東京ドームのベンチ裏で見た後ろ姿だった。

あのシーズンの8月13日、2−0と巨人がリードしていた九回表、私が三塁側ブルペンの近くへ行ってみると、山崎康が廊下の天井に設置されている小さなモニターの画面を見上げていた。
ブルペンの中にも大きなモニターが2台あるのに、なぜ彼が廊下のモニターを見ていたのかはわからない。

モニター画面の中で背番号19を背負った巨人・菅野の背中を、やはり背番号19の山崎康が、腰に手を当てて見つめている。
なかなかいい構図で、思わずiPhoneを取り出して写真を撮りたくなったが、山崎康はこうして集中力を高めているのかもしれない。

このとき、私以外に廊下にいたのは、山崎康、外国人投手のエレラ、ブルペン前の警備員だけだった。
この空気をざわつかせてはいけないような気がして、私はただ後ろから山崎康の背中を見つめていた。

菅野がワンアウトから代打・倉本にライト線へ二塁打を打たれると、山崎康は傍らに置いてあった帽子をあみだにかぶり、黒いグラブをはめ、ブルペンに入った。
ほどなく、スパーン! スパーン! と、直球がブルペン捕手のミットに収まる音が廊下にこだまし始める。

この回、味方の打線は必ず逆転する、少なくとも同点に追いついてくれる。
山崎康の投げ込むボールの音からは、そんな彼の勝利への思いが伝わってくるようだった。

このあと、梶谷がライトへのタイムリー二塁打で1−2と1点差に迫り、筒香の勝ち越し2ラン・ホームランで現実に逆転する。
九回裏、満を持してマウンドに上がった山崎康は、先頭のアンダーソンにセンター前へ運ばれながら、続く代打の阿部を一ゴロ併殺打に打ち取り、3人で最終回を締めくくった。

あの夜、山崎康と言葉を交わしたわけでもないのに、何故か三塁側のベンチ裏でじっと菅野の姿を見つめていた彼の背中がいまでも脳裏に残っている。
この仕事をしていて、ああ、いい場面に立ち会わせてもらっているな、と感じるのは、実はこういうときだ。

試合後、中畑監督のはしゃぎっぷりも、筒香のヒーローインタビューも直接取材した。
菅野の囲みにも加わり、彼が立ち止まって気丈に記者の質問に答える姿にも胸を打つものがあった。

しかし、私にとってあの夜のヒーローは、通算29セーブ目をマークした山崎康だった。
あれから121個のセーブを積み重ねての150セーブに、改めて拍手を送りたい。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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