『モリのいる場所』(WOWOW)

109分 2018年 日活

明治、大正、昭和を生き、97歳で没した伝説的な画家・熊谷守一の晩年の一日を描いた作品。
不勉強にしてこの画家のことは何も知らなかったのだが、晩年の30年間は東京都豊島区千早の自宅からほとんど一歩も出ずに暮らしていたという。

94歳の熊谷を演じるのは82歳だった山﨑努、76歳の妻・秀子役は本作の撮影後に75歳で亡くなった樹木希林(ただしこれが遺作ではない)。
ふたりとも文学座に在籍し、一時代を築いた名優同士だが、夫婦役はもちろん、共演したこと自体、本作が最初で最後の作品となった。

熊谷は日がな一日飽きもせず、庭のアリやメダカを見ていて、絵画も書も気分が乗らなければ手をつけようとしない。
時折訪れる仕事の依頼者、近所の住人(きたろう)、近所にマンションを建てる不動産業者(吹越満)の相手などはすべて妻の純子か賄い婦の美恵ちゃん(池谷のぶえ)に任せきりである。

とりわけ印象的なのは、地べたに寝そべったまま、石の上を歩き続けるアリの行列を、その向こう側から熊谷が延々と凝視しているショット。
そんなに熱心に何を見ているのかと思ったら、熊谷が突然「アリは常に左側の2本目の足から歩き出す」と大真面目に言い出すところが面白い。

ヤモリ、蛾、ハエなど、随所に挿入されている自然を描いたドキュメンタリーのようなカットも心に残る。
このあたりは、テレンス・マリックの『地獄の逃避行』(1973年)、『天国の日々』(1978年)を彷彿とさせた。

監督・脚本は『南極料理人』(2009年)の沖田修一で、今回も筋らしい筋はなく、周囲の人間ばかりが右往左往するだけ。
終始泰然自若としていた熊谷が自室に戻ってゆく幕切れの余韻は素晴らしいが。

ただし、賛否両論だったらしい「金だらい」と「宇宙人」にだけは、個人的に違和感を覚えた。
山﨑と樹木はどう思っていたのだろうか。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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