『ブルーサンダー』(NHK-BS)

(Blue Thunder/109分 1983年 コロンビア・ピクチャーズ)

私が大学2年生だった劇場公開当時、現在はすでに閉館となった新宿プラザで観た映画である。
白昼のロサンゼルスでホンモノの戦闘ヘリコプターが飛び交い、追いつ追われつの空中戦を演じるというアイデアが素晴らしく、その面白さはいまもまったく色褪せていない。

とくに後半、主人公マーフィ(ロイ・シャイダー)がタイトルロールのテロ対策用攻撃ヘリ・ブルーサンダーを強奪し、ロス市警と対決するくだりが圧巻。
まず、橋の上で元妻の恋人ケイト(キャンディ・クラーク)がパトカーに追われ、警官に逮捕されそうになった次の瞬間、空を切るローター音とともに橋の下からぬっとブルーサンダーが現れる場面がものすごい迫力である。

監督のジョン・バダム、カメラのジョン・A・アロンゾはケイトと警官たちを手前に置き、その背後から浮上するブルーサンダーを真正面から撮影。
一瞬、操縦席にマーフィがいるのを忘れて、ブルーサンダーそのものが意思を持っている巨大な化け物のように見える。

そして、白眉は何と言っても仇敵コクラン(マルコム・マクダウェル)が乗る軍用ヘリ・OH-6カイユース(ヒューズ社製)との一騎討ち。
コクランの先制攻撃を受けて手負いとなったマーフィがブルーサンダーで宙返りを敢行し、コクランのバックを取って見事撃墜に成功する。

撃ち落とされる寸前、コクランが目を剥いて「ありえない!」と絶叫する表情がカタルシスを高めている。
この場面、シャイダーのクローズアップとブルーサンダーを横から撮ったカットをつないでおり、実際に宙返りをしていないのは明らかだが、力技的にたたみかける演出、矢継ぎ早な編集のテンポがよく、観ている間は気にならない。

こうしたスリリングでエキサイティングなシーンの数々、もし現代でリメイクされたら、もはやホンモノではなくCGだけで作られてしまうだろう。
このホンモノを使った撮影が、本作がいまなお色褪せていないという以上に、迫真のリアリティを維持している所以である。

ちなみに、ブルーサンダーは映画のために作られたヘリコプターで、機首にガトリング砲がついているためにバランスを取るのが難しく、実際はまともに操縦することすら大変だったそうだ。
F-16ファイティング・ファルコンとの対決場面はオプチカル合成で、ブルーサンダー も1/6スケールのラジコンが使われているものの、観ている限りは原寸大のホンモノと違和感を感じさせない。

なお、現代では軍用ヘリによる宙返りは可能になっており、陸上自衛隊のOH-1ニンジャ(川崎重工製)の実演動画がYouTubeで見られる。
また、ブルーサンダーのローター音を消すウィスパー機能、赤外線照準器、録音録画装置など、当時はまだ実験段階だった様々な機能が、現代ではほとんど実用化されているという。

ところで、本作は劇場公開時、コクランら悪役一味の計画が字幕できちんと翻訳されていなかったことを付記しておく。
私が新宿プラザで観たバージョンでは「ロサンゼルス作戦」という安直な造語が捏造され、コクランらがブルーサンダーを悪用して大都市の制圧に乗り出そうとしている、というマンガじみた陰謀に変えられていた。

現に、当時の雑誌〈スクリーン〉の批評連載、双葉十三郎氏の『ぼくの採点表』でもそのように書かれている(双葉氏はレイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』などの翻訳家でもあるのだが)。
しかし、今回放送されたバージョンでは、コクランらは人為的に過去の黒人暴動を再現させ、これをブルーサンダーで制圧し、ロスの有色人種やマイノリティーを虐殺しようと企んでいたことがわかる。

これも荒唐無稽と言えば荒唐無稽だが、アメリカ人にとってははるかに生々しさを感じさせる設定だろう。
この背景にあるのは1965年のワッツ暴動であり、本作の中でヘリコプターが墜落するのも現実に暴動の発生源となったワッツ地区だ。

さらに、マーフィがブルーサンダーを強奪すると、黒人のロス市長(ジェイムズ・バーナード)が警察にやってきて対策の指揮を執る。
名前こそ明示されていないが、彼が黒人として初めて市長選に当選、公開当時も市長の任にあったトム・ブラッドリーであることは明らか。

エンドクレジットには、本作のプロデューサーたちがブラッドリーに対して謝意を示すテロップも流れる。
これも劇場公開時には日本の映画ジャーナリズムや批評家が指摘していなかった重要なポイントのひとつ。

本作が公開された翌年の1984年、ロサンゼルスではオリンピックが開催され、史上空前の経済的成功を収めた。
そういう歴史的、社会的背景を取り入れているという意味でも、もっと再評価されていい作品ではないだろうか。

俳優では主役のシャイダーもさりながら、悪役のマクダウェル、ヒロインのクラーク、それにマーフィの上司を演じるウォーレン・オーツと脇役陣の好演が光る。
本作はこれが遺作となったオーツに捧げられており、エンドクレジットの最後にそのテロップが出てきたときは36年の歳月を越え、改めてしんみりさせられた。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
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7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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