『ゲティ家の身代金』(WOWOW)

(All the Money in the World/133分 2017年 アメリカ=トライスター・ピクチャーズ、イギリス=ソニー・ピクチャーズ・リリーシング 日本配給2018年 KADOKAWA)

1973年7月、ローマで実際に起こった大富豪ゲティ家の孫が誘拐された事件を、名匠リドリー・スコットが映画化した作品。
主人公ジャン・ポール・ゲティを演じたオスカー俳優ケヴィン・スペイシーが未成年者への性的虐待疑惑で降板し、クリストファー・プラマーが急遽代役を務めざるを得なくなった、という舞台裏のスキャンダルでも話題になった。

スペイシーの醜聞が発覚したのは、すでに彼の出演場面をすべて撮り終えたあとで、スコットとプラマーは公開1カ月前に再撮影に取りかかったと伝えられる。
が、そういう事情を知らなければ、いや、知っていても、ゲティ役は最初からプラマーが演じることになっていたとしか思えないほどの名演。

開巻早々、女性秘書に孫のゲティ3世(チャーリー・プラマー)が誘拐されたと告げられながら、ゲティは返事をしないどころか振り返りもしない。
次から次へと市場から打電されてくる株取引のデータプリントを見ながら、「いまはダメだ! 取引が始まってる!」と、にべもなく撥ねつける。

さらに、誘拐事件が発覚し、ロンドンの豪邸のまで報道陣に囲まれても、まったく動揺した素振りも見せず、「1700万ドルは身代金としては高過ぎる。君たちはそう思わんかね」と放言。
しかし、誘拐されたゲティ3世の母親アビゲイル・ハリス(ミシェル・ウィリアムズ)は夫だったゲティの息子ゲティ2世(アンドリュー・バカン)と離婚しており、自力では身代金を調達できない。

そこで、ゲティの側近で元CIA捜査官フレッチャー・チェイス(マーク・ウォールバーグ)がハリスをサポートしながら、ローマの警察と協力し合って身代金の値下げ交渉に臨むことになる。
その最中、誘拐犯グループのアジトからゲティ3世が逃げ出したり、警察署に逃げ込んだと思ったら連れ戻されたり、といった展開はこの種のサスペンス映画にありがちな定石通りの展開。

しかし、交渉が遅々として進まず、業を煮やした誘拐犯グループの首領サヴェーリオ・マンモリーティ(マルコ・レオナルディ)がゲティ3世の右耳を切り落とす場面は、思わず目を背けたくなるほどの迫力。
事ここに至り、ゲティも400万ドルまで値下げされた身代金を払うことに同意せざるを得なくなる。

ただし、それまでゲティのほうに忠実だったチェイスが、この土壇場にきて態度を一変させ、ハリスの味方につくあたりはいささか唐突で納得しかねる。
エンディングも後味はいいが、肩透かしに終わっている印象が拭えず、もう一捻りしてほしかったところ。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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