『マッキントッシュの男』(NHK-BS)

(The Mackintosh Man/アメリカ=ワーナー・ブラザース 1973年 日本公開:1974年 98分)

ぼくが生まれて初めて観た字幕付きのアメリカ映画であり、大人のためのサスペンス映画。
観たのは1974年の夏、広島市内の東映パラス(現在は廃館)で、ぼくは小学6年生、入場料は確か300円だった。

併映はホラー映画の古典『エクソシスト』(1973年)。
興行としての目玉も、近所の友だちと観に行ったぼくの目当ても、もちろんこちらのほうである。

その『エクソシスト』の前に上映された本作は、当時のぼくには何が何だかさっぱりわからなかった。
が、ジョン・ヒューストン作品ならではの独特の雰囲気、『第三の男』(1949年)を彷彿とさせるモーリス・ジャールのノスタルジックな主題曲が長く記憶に残り、何度も再見することになった。

高校生だった1980年、地上波映画番組『日曜洋画劇場』で吹替版が放送されると、当日実家のテレビでチェック。
このときにストーリーを理解してやっと、劇場公開当時は子供だった自分にとって、何故本作が〝大人のサスペンス〟と思えたのかがわかった。

その前か後かは覚えていないが、ハヤカワ文庫で出ていたデズモンド・バグリイの原作小説も読んでいる。
こちらはむしろ、子供にもわかりやすい勧善懲悪型国際スパイ小説だった。

この原作に、監督のヒューストン、脚本を書いたウォルター・ヒルは、かなり大胆な改変を施している。
なにしろ、タイトルロールのマッキントッシュ(ハリー・アンドリュース)、そのマッキントッシュに雇われる主人公ジョゼフ・リアデン(ポール・ニューマン)と、映画の中軸を担う男ふたりの正体が最後まではっきりしないのだ。

舞台は米ソ冷戦下のロンドン。
英国政界の裏側で暗躍するマッキントッシュの目的は、愛国主義者として知られる議員ジョージ・ウィーラー(ジェームズ・メイスン)が、実はソ連のスパイだという正体を暴くことにあった。

原作のクライマックスでは、そのウィーラーがクルーザーでソ連への亡命を図り、リアデンが追跡。
最後は船首にトマホークを溶接したモーターボートで追突し、クルーザーを爆破してスパイ一味を一網打尽にする。

ところが、ヒューストン&ヒルの映画版では、自分の正体を当局に知られたウィーラーが、リアデンに追い詰められて観念。
自分は名声も財産も失った、せめて余生は東側で平和に過ごしたい、そういう老人を刑務所にぶち込むのかとウィーラーに言われると、リアデンもその場で理解と同情を示し、ウィーラーの逃亡を黙認しようとする。

その直後、そこまでリアデンを献身的に援助していたマッキントッシュの秘書、実はマッキントッシュの娘だったスミス夫人(ドミニク・サンダ)のモーゼルがウィーラーに向かって火を噴く。
今時のあざとい演出が施されていないぶん、この場面は非常に強烈だった。

「殺すことはなかっただろう」と言うリアデンに、「この男たちは私の父を殺したのよ。あなたも撃てばよかった」とスミス夫人が言い返すと、リアデンは表情ひとつ変えず、持っていた拳銃を彼女に向かって放り投げる。
このエンディングも切れ味抜群。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12 『ホテル』(1977年/伊、西独)C
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る