『万引き家族』

120分 2018年 ギャガ

今年のカンヌ国際映画祭で今村昌平監督作品『うなぎ』(1997年)以来のパルム・ドールを受賞し、6月8日の日本初公開以降、大ヒットを続けている作品。
やっと時間のできた今月19日、TOHOシネマズ日比谷へ14時10分の回を見に行ったら、日曜だったこともあって車椅子席まで満員だった。

かろうじて地上げを免れたような荒川区の片隅にある陋屋に、老婆・柴田初枝(樹木希林)を中心とする5人の家族がひっそりと暮らしている。
その息子の治(リリー・フランキー)は日雇い労働者で、修の妻・信代(安藤サクラ)はクリーニング屋のパート従業員。

彼らが初枝と同居しているのは、月11万円の年金を目当てにしていることが見ているうちにわかってくる。
もちろんそれだけでは生活していけないので、治は自分の息子・祥太(城桧吏)に万引きを手伝わせ、盗品を転売して生活費を稼いでいた。

亜紀(松岡茉優)は両親のはずの治や信代、弟に当たる祥太とは微妙な距離を置いていて、祖母の初枝にだけなつき、毎晩一緒に寝ている。
そんな家庭にある日、万引き仕事を終えた治と祥太が、ベランダに放置された少女ゆり(本名じゅり=佐々木みゆ)を連れ帰ってきた。

彼らがみんな血の繋がりがない〝擬似家族〟であることは、宣伝でも散々語られている通りで、映画が始まってから割りと早い段階で明らかになる。
家族を家族たらしめているものは、血の繋がりなのか、一緒に過ごした時間の濃さなのか、是枝が『誰も知らない』(2004年)、『そして父になる』(2013年)で追求してきたテーマが、また新たな形で繰り返される。

本作に登場する家族同士の絆を強めているものは犯罪であり、共犯者意識だ。
それも、万引きや年金の不正受給など、金に困った一般庶民が手を染めがちな法律違反である。

これが生きてゆくための手段なのだと割り切り、罪悪感を持たない「万引き家族」の姿を、是枝はごく普通の、というよりどこか魅力的な人間として淡々と描いてゆく。
とりわけ、家族そろって食事をする場面が素晴らしい。

祥太がカレーうどんにつけて食べるコロッケ、信代が頬張るトウモロコシやソーメンなど、ズルズルベチャベチャと音を立てて食べる姿からは、食べ物の匂いまで漂ってきそうで、思わず腹が鳴ったほど。
そのソーメンを食べたあと、修と信代がセックスし、信代の背中に張り付いたネギを治が舐める場面がまたいい。

極めつきは、みんなで鍋を囲んでいるとき、ゆりが麩をほしがり、初枝が息を吹きかけて食べさせてやるところ。
どこからどう見ても、二世帯住宅で暮らす祖母と孫のようにしか見えないこのシーンは、本作の隠れた白眉でもある。

いささか食い足りない点を挙げるとすれば、犯罪者である治や信代が好人物で、祥太が優等生的性格であるという設定か。
これは『誰も知らない』でも感じたことだが、こういう家族であれば、多少はどこか残忍なところや狡賢いところがあっても当然だろうし、そのほうがリアリティが増すと思うのだが。

とはいえ、役者の好演がこの映画の印象を一際爽やかで感動的なものにしているのも確か。
役者の中では安藤サクラが一番の好演で、彼女のベストと言ってもいいだろう。

その安藤に、「あんた、よく見るときれいな顔してるわね」と言う樹木希林も絶品。
採点85点。

TOHOシネマズ日比谷・新宿などで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

2018劇場公開映画鑑賞リスト
3『カメラを止めるな!』(2017年/ENBUゼミナール、アスミック・エース)90点
2『孤狼の血』(2018年/東映)75点
1『グレイテスト・ショーマン』(2017年/米)90点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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