『カメラを止めるな!』

 私はシリアス路線だろうがコメディー仕立てだろうが、ゾンビ物にはほとほと飽き飽きしている。
 これは『ゾンビランド』(2009年)や『ワールド・ウォーZ』(2013年)、品川ヒロシが監督した日本製ゾンビコメディー『Zアイランド』(2015年)のレビューでも散々書いてきた通り。

 断っておくが、以上の3本は決して出来映えの悪い映画ではない。
 カネもかかっているし、スターも出ているし、ファンや批評家の間で一定の評価も得ている。

 しかし、私自身は『Zアイランド』でゾンビ物には完全に食傷してしまった。
 二度と見に行くものかと固く決心していた、と言っても過言ではない。

 だから、この映画が予想外の大ヒットになっていると聞いても、NHK朝のニュース番組で取り上げられているのを見ても、映画館に足が向かなかった。
 が、SNSにアップされている知人の感想を読むと、ゾンビがネタにはされているものの、これまでのいわゆるゾンビ物とはだいぶ違うらしい。

 1週間ぶっ通しで甲子園の第100回大会を取材して帰京した翌日の17日、TBSラジオの早朝生出演を終えたあとのこと。
 さすがに寝不足気味で、原稿を1本送るべきところへ送り、ここいらで何か野球以外のものを見て切り替えたいな、とぼんやり考えているとき、この映画のことが頭に浮かんだ。

 これだけ評判になっているのだから、あまりに退屈で眠くなることはあるまい。
 ゾンビ物ならそれほど頭を使わなくて済むし、などと考えて、TOHOシネマズ上野の14時25分の回に足を運んだ。

 開巻、CMでお馴染みの場面が出てくる。
 ゾンビとなって迫ってくる彼氏、泣き叫びながら抵抗するヒロイン。

 何という見飽きた場面、何という粗い画面、何という稚拙な演技、何という単調な演出。
 あ~あ、やっぱり見るんじゃなかった…と思ったら、37分間ワンカットでゾンビ対人間の死闘が続くうち、何とも奇妙な雰囲気と迫力にズルズルと引きずり込まれてしまう。

 そして、1時間36分後、私はすっかり感動していた。
 ただよくできているだけの映画であれば、ある程度は笑ったり唸ったりしても、これほど感動はしなかっただろう。

 この映画は、散々使い古されたゾンビネタにも、まだ思ってもみなかった新たな料理法があることを教えてくれた。
 低予算だし、スターは出ていないし、というよりハッキリ言って知らない役者ばかりなのに、バカガネかけて大スターを担ぎ出したゾンビ物より、はるかに面白い映画ができることを実証した。

 つまり、アイデアの勝利である。
 そのアイデアを信じ、ひたすら映画の完成へ向けて突き進んだ新人監督・上田慎一郎以下、スタッフと無名の役者たちの情熱の賜物である。

 低予算の日本映画を見てこういう感動を味わったのは入江悠のデビュー作『SRサイタマノラッパー』(2009年)、その続編『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010年)を見たとき以来。
 オレも書くのを止めてはいかんな、と思った。

 採点は90点。

(2017年 ENBUゼミナール、アスミック・エース 96分)

TOHOシネマズ上野・日本橋・六本木ヒルズ、渋谷ユーロスペース、新宿K’s cinemaなどで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

2018劇場公開映画鑑賞リスト
2『孤狼の血』(2018年/東映)75点
1『グレイテスト・ショーマン』(2017年/米)90点


スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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