『893愚連隊』(WOWOW)

88分 1966年 東映 モノクロ

松方弘樹、若かりし日の最高傑作ではないだろうか。
松方演じる主人公は白タク稼業で日銭を稼いでいる愚連隊で、若さと悪知恵で暴力団の大金を横取りしようと目論む姿が、ヤクザ映画というよりヌーベルバーグの青春映画のように描かれている。

監督とオリジナル脚本はこれが出世作となり、日本映画監督協会新人賞を受賞した中島貞夫。
タバコ銭やタクシー代をごまかしたり、やることなすこといちいちセコイ松方が、時折ハッとさせるようなセリフを吐く。

「電気冷蔵庫は5年の保証あるけど、ワイらは明日の保証もないんや」
「ワイら愚連隊やねん、ケンカするいうて、誰のためにするのや。日本かて勝てん戦争して負けたやろ」

闇社会でのし上がろうにも、強大な組織力をバックに持つ大手暴力団には到底敵わない。
それでも一攫千金を狙い、ヤクザのカネを横取りして一泡吹かせようとするのだが、スッタモンダのあげく、スタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』(1956年)によく似た結末を迎える。

エンディングで松方がつぶやく「当分はアカンで、ネチョネチョ生きとるこっちゃ」というセリフが実にいい。
これは劇場公開当時も話題になり、のちのちまで語り草になった、ということは、観た後で初めて知った。

愚連隊の仲間・荒木一郎、ヤクザの大幹部・高松英郎もいい味を出し、本作独特の雰囲気作りに大いに貢献している。
松方は本作公開の2年後、本作の発展形とも言える深作欣二の『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)でまた愚連隊のリーダーに扮し、深作作品ならではの凄絶な最期を演じた。

しかし、ぼくとしては、青春時代の儚さ、虚しさがしっとりと表現された本作のほうが好きですね。
深作よりも中島のほうが、松方の魅力を正しく理解し、うまく引き出していた、と言ってもいいかもしれない。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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56『猿の惑星』(1968年/米)A
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41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
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33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
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31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
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28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
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12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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