『妖術武芸帳』(DVD-BOX)

 毎週日曜夜7時の〈タケダアワー〉(武田薬品一社提供の30分子供向けドラマ枠)で放送されていた東映製の特撮時代劇。
 当時6歳だったぼくは毎週楽しみに見ていたのだが、視聴率がふるわず(と言っても平均13.7%)、僅か1クール(13話)で打ち切りとなった。

 最近はかなりマイナーなアニメや特撮ドラマ、放送不可能となっているエピソードでもネットの動画投稿サイトで見ることができるが、本作はそういうところでもなかなか視聴できない状態が続いていた。
 だから、 AmazonでこのDVD-BOXを見つけたときは、飛びつくようにしてポチッとやりました。

 このトシ(55歳)になって見直しても、特撮ドラマとしてのクオリティーは高く、役者たちも熱演で、ゴールデンタイムの番組ならではのボルテージの高さが感じられる。
 とりわけ、オープニングの映像と主題歌のカッコよさは、タケダアワーでもこの時代の特撮ドラマでも群を抜いていた。

 第1話「怪異妖法師」の幕開けも素晴らしく、冒頭に老中を乗せた駕籠が土煙の噴射によって空に飛ばされ、バラバラにされた駕籠かきたちの手足がボトボトと落ちてくる。
 その手足が真っ赤な血糊でベトベトで、こういう描写ひとつ取っても、まだ6歳だった子供には大変衝撃的だった。

 同じタケダアワーの特撮ドラマでも、東宝の『ウルトラマン』(1966~67年)や『ウルトラセブン』(1967~68年)は、滅多に血が流れることはなかった。
 〝特撮の神様〟円谷英二により、「子供に血を見せてはならない、たとえ人間ではなく怪獣の血であっても」という方針が徹底されていたからだ。

 ところが、東映が制作した本作では控え目ながらもしっかりと血が表現され、妖法師の胴体が真っ二つにされたり、脇役の浪人がやられて生首が転がったり、子供向けドラマとしては大胆な残酷描写が目立つ。
 また、掛け軸から船が出てきたり、城内に水が溢れて武士たちが溺れそうになったり、特撮のアイデアもほかのドラマでは見られない斬新なものが多かった。

 ロカビリー歌手から俳優に転向し、これが初の本格主演作となった隠し目付・佐々木功、その脇を固める藤岡重慶、その妹役の楓ミツヨもそれぞれ好演。
 後半のエピソードでは川谷拓三も悪役・波羅門一味の斬られ役として登場している。

 ただし、伊上勝の脚本は、子供向けにしては難しい言葉が多く、大人になった私がいま見ていても、ビデオを再生し直して確認しなければならないセリフが少なくない。
 当時も視聴者からわかりにくいという批判が寄せられていたようで、第7話「怪異風摩屋敷」から冒頭で概要の説明が行われ、妖術の内容を説明するナレーションが入るようになる。

 そういうところが子供向け番組としては中途半端で、視聴率が伸びなかった原因だったのかもしれませんね。
 オススメ度B。

(1969年 TBS、東映 全13話=1話30分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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