『脱獄広島殺人囚』(セルDVD)

『仁義なき戦い』シリーズ(1973~74年)と同時期に製作された松方弘樹中期の代表作。
監督は前項『893愚連隊』(1966年)、『暴力金脈』(1975年)でも松方と組んだ中島貞夫で、本作でも松方ならではの〝男の可愛さ〟をうまく引き出している。

舞台は終戦後間もない昭和22年の広島。
仲間の渡瀬恒彦とつるんでモルヒネの密売をやっていた松方は、渡瀬を殺そうとした密売人の拳銃を奪って逆に殺害、懲役20年の判決を受けて広島刑務所にぶち込まれる。

タイトルバックで「カンカン踊り」と呼ばれた身体検査、囚人の全員が裸になって次々に湯舟に浸かる入浴などの描写が、いまでは映画史的価値も高く、なかなか興味深い。
松方扮する主人公・植田正之は実在の脱獄囚をモデルにしており、彼を東映サイドに紹介したのが『仁義なき戦い』の元ネタとなった手記の執筆者・美能幸三(菅原文太が演じた広能昌三に当たる人物)。

監督の中島、脚本を書いた野上龍雄も当然、植田のモデルに直接取材しているのだが、深作欣二&笠原和夫コンビの『仁義なき戦い』のようなハードな実録路線にはしなかった。
松方が最初に懲罰房の便所から脱獄し、舞い戻った自宅で女房の昌代(小泉洋子)とバックで〝立ちマン〟する場面など、まるっきりコメディー映画のノリで思わず噴き出してしまう。

松方はその後、関西まで逃亡したものの、片岡千恵蔵主演の多羅尾伴内シリーズ第1作『七つの顔』(1946年/大映)が上映中の映画館前であえなく逮捕。
連れ戻された刑務所では梅宮辰夫が看守を人質に取って待遇改善を要求し、刑務所長の金子信雄に「カンカン踊り」をやらせる場面も笑わせる。

こういう映画でこういうキャラクターだから、松方も決してカッコイイやくざとして描かれてはいない。
1対1で落とし前をつけよう、と正々堂々と勝負を挑んできた伊吹吾郎を、浴室で裸になったときに背後から刺し殺し、狡賢そうにニヤリと笑って見せるあたりは松方ならでは。

現代ではなかなかテレビ放送は難しいだろうな、と思わせるのは、再度脱獄した松方が妹・大谷直子の暮らす四国・松山の実家に転がり込んでからのくだり。
この家の裏山で松方、大谷の昔馴染み・室田日出男とその仲間が牛の闇屠殺をやっていて、バラバラにした牛肉の仕分けをする場面が出てくるのだ。

最後は、度重なる脱獄と余罪で積もり積もった懲役年数41年7カ月。
そんな刑期まともに務めていられるか、とまたもや脱獄した松方が、大根をかじりながら単線のレールの上を歩き、タバコに火をつけようとレールに石を打ちつけ、カンカン、カンカン、と乾いた音が響く場面で映画は終わる。

ここまで血と汗と糞尿が匂い立つような場面が続き、その合間にコメディータッチで笑いを誘って、いまやタブーとなっている社会の裏側を見せながら、幕切れにストーンと抜けるような清涼感をもたらすラストシーン。
紛れもなく傑作である。

オススメ度A。

(1974年 東映 97分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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