『資金源強奪』(セルDVD)

 大ヒットした『仁義なき戦い』シリーズ(1973~74年)終了後、深作欣二が新機軸に打って出たコメディータッチの犯罪アクション映画。
 前項『ドライヴ』が今時のレストランで食べるフレンチやイタリアンなら、こちらは1970年代のハエが飛び交う大衆食堂のカツカレーである。

 当然のことながら、55歳の日本人としては本作のほうが口に合う。
 深作がハードな実録路線からのマイナーチェンジを図ろうと、クレジットを「ふかさくきんじ」と平仮名にしたところ、会社やスタッフの猛反対に遭い、本作1本で終わったという裏話も興味深い(『映画監督 深作欣二』)。

 北大路欣也演じる主人公は大阪の暴力団・羽田組のヒットマンで、幹部の名和広に「タマをとったら十分に報いてやる」とそそのかされて対立する組織の組長を射殺。
 熊本刑務所で8年も臭いメシを食って出てきたら、親分・岡田英次は北大路が殺した敵対組織の2代目と兄弟杯を交わす間柄になっていた。

 自分が邪魔者になったと悟った北大路は、「カタギになります」とウソをつき、ムショ仲間の室田日出男、川谷拓三と謀って兄弟杯の祝いに催される総長賭博に殴り込むことを計画。
 この盆が開かれたのが雄琴の旅館で、いまでは見られない「トルコ風呂」(現ソープランド)の看板が林立している街並みが笑わせる(当時、そういう効果を意図して撮っていることも明らか)。

 川谷が楽しそうに演じている爆弾作りの名手が賭博場で催涙弾を炸裂させ、岡田や名和が仰天している間に北大路らは現金約3億5000万円の強奪に成功。
 このあたりはさすがテンポと歯切れのいい深作演出で、かなりご都合主義なところもあるものの、あれよあれよといった感じで一気に見せる。

 岡田、名和らは警察に被害届を出すわけにいかないため、悪徳刑事・梅宮辰夫を雇って強奪犯を捜索。
 一方、強奪犯一味は当初の分け前1000万円では少ない、5000万円寄越せと訴える室田、川谷コンビが北大路と仲間割れ寸前の状態に陥る。

 梅宮は尼崎競艇のノミ屋・山城新伍を締め上げ、芹明香と本番真っ最中の川谷を捕縛(この場面はテレビでは放送しにくいでしょうね)。
 ところが、岡田、名和が約束の報酬、強奪された金額の20%を渡そうとせず、頭にきた梅宮は北大路と組んで羽田組に立ち向かうことになる。

 オリジナル脚本を書いた高田宏治が造形した登場人物は誰も彼も徹底的にドライ、かつコミカルで、彼らの人間関係が二転三転する展開も面白い。
 女にこだわる脚本家らしく、北大路や名和と三角関係になる太地喜和子、川谷の情婦・芹、梅宮の5人目の10代の妻・渡辺やよい、最後に思わぬからみを見せる小川洋子ら、女優陣のキャラも立っている。

 ただし、このころの実録路線のタッチを引きずっていたのか、深作の演出は要所要所で重たくなってしまい、いまひとつ高田の軽快なシナリオとうまくシンクロしていないような印象を受ける。
 深作自身もそのことは痛感しており、『映画監督 深作欣二』では、「そのあたりが野暮の野暮たる所以」と自嘲的に語っている。

 とはいえ、深作のフィルモグラフィーの中ではターニングポイントのひとつになった作品であり、これがのちの快作『いつかギラギラする日』(1992年)につながったとも言えよう。
 オススメ度B。

(1975年 東映 91分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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