『弁護人』(WOWOW)🤗

변호인,The Attorney
127分 2013年 韓国 日本公開:2016年 配給:彩プロ

主演がソン・ガンホだから見る気になり、出来のいい法廷サスペンスだろうぐらいにしか思わず、まったく予備知識のないままに鑑賞したので度肝を抜かれた。
韓国では2013年に公開されるや1100万人の観客を動員、興収第1位のヒット作となったが、日本公開が3年遅れたのは恐らく政治的メッセージの強さが懸念されたからだろう。

時は1980年代、全斗煥政権下の釜山。
ガンホ演じるソン・ウソクは、少々おっちょこちょいながらも高卒で司法試験に合格した勤勉で努力家の弁護士である。

大卒のエリート弁護士に小馬鹿にされながらも、釜山で不動産登記や税務対策専門の法律事務所を開業。
司法書士より安い金額で庶民から持ち込まれる仕事を請け負い、たちまち売れっ子にのし上がる。

やがてひと財産築いたウソクは、苦学しながら法律の勉強をしていたころ、将来は何としても住みたいと望んでいた海辺の高級マンションを購入。
ここに引っ越してきた妻(イ・ハンナ)と子供を連れ、下町のしがないクッパ屋でささやかな祝杯をあげると、その後も事務所の相棒パク・ドンホ(オ・ダルス)と一緒に足繁くこの店に通うようになる。

実は7年前、金に困っていたウソクは、このクッパ屋に長居して勉強していたころ、無銭飲食をして遁走していたのだ。
おかげで晴れて弁護士になることができたからと、女将さんパク・スネ(キム・ヨンエ)の元に踏み倒した料金を持参し、せめてもの罪滅ぼしにとこの店の上得意になる。

ここまでの展開とアットホームな雰囲気は、まるで昔の松竹映画の人情喜劇のようで、ガンホが渥美清、ダルスが佐藤蛾次郎を彷彿とさせるほど。
ところが、スネの一人息子ジヌ(イム・シワン)が、突然国家保安法違反容疑で逮捕され、映画全体がガラリと深刻なトーンに変わる。

ジヌは港の倉庫のようなところに監禁され、軍のユン中尉(シム・ヒソプ)に激しい拷問を受け、危険思想を広めていたと供述するよう強要されていた。
悲嘆に暮れるクッパ屋の女将さんを見て義侠心に駆られたウソクは、ここからそれまでとは打って変わった人権派弁護士へと転身、妻や相棒を説得し、ジヌの弁護士としてこの冤罪裁判に立ち向かう。

主役のガンホは大変な熱演で、被害者のシワン、脇役のヨンエ、ハンナ、ダルスもそれぞれ好演。
悪役のヒソプも圧政が敷かれていた時代の軍人を実に憎々しく(しかし随所に人間味も交えて)演じており、見ているうちにこちらも力が入り、身を乗り出さないではいられない。

モデルとなったのは1981年、実際に起こった「釜林(ブリム)事件」という冤罪事件で、韓国国民の間では軍事政権の闇と横暴を象徴する事件として根強く記憶されているという。
そして、ガンホが一世一代の名演で演じ切ったウソクは、韓国国民なら誰でも知っている英雄的存在、盧武鉉元大統領の弁護士時代である。

こういう映画が2013年に製作、公開されて大ヒットした当時の韓国では、李明博、朴槿恵らかつての軍事政権の遺伝子を受け継ぐ大統領の天下が続いていた。
さすがにこの映画に描かれているような監禁や拷問は行われなかったにせよ、韓国国民の間に高圧的な政治手法に対する不平不満が鬱積していたことは疑いようがない。

その李明博、朴槿恵元大統領が現在どういう立場にあるかは、すでに日本人もよく知っている通りである。
映画と政治の関係、映画がいかに政治的メッセージを持ち得るかについて改めて考えさせられた秀作。

オススメ度A。

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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