『アメリカン・マンハント:オサマ・ビンラディン』(Netflix)🤗😱

American Manhunt: Osama Bin Laden
3エピソード 183分 2025年 アメリカ=Netflix

全世界で配信が開始されるや、大反響を巻き起こしたNetflixオリジナル・ドキュメンタリー・シリーズの最新作。
2001年9月11日に発生したアルカイダによる同時多発テロ事件以降、9年8カ月をかけてアメリカ政府、CIA、特殊部隊シールズが首謀者ビンラディンを発見、殺害した経過を事細かに描いている。

捜査に関わったCIAやホワイトハウスの高官をはじめ、クウェートのアジトに潜んでいたビンラディンを強襲し、実際に射殺した兵士までがインタビューに登場。
アジトを強襲した際に撮影された動画、強襲部隊と連絡を取り合う指令センターの映像、オバマ大統領が最終決断を下したホワイトハウス内部の会議室の写真なども映され、迫力と臨場感たっぷりに一連の経緯が語られる。

最も驚かされたのは、クウェートのアジトを強襲する前、確かにビンラディンが潜んでいるという100%の確証をつかめていなかった、というCIA関係者の証言。
ブッシュ大統領が始めたイラク戦争では、「大量破壊兵器が隠されているから」という情報が開戦の理由だったが、いざイラクを占領してみたらそんなものはどこにもなかった。

ところが、その「大量破壊兵器情報」より、「ビンラディン潜伏情報」のほうがもっと確度が低かったという。
それにもかかわらずゴーサインを出したオバマ大統領とその周辺は、「もしガセだったらこの政権はおしまいだ」と心配でならなかったらしい。

平和ボケだとの誹りを承知の上で、同時多発テロ事件を対岸の火事としてしか見られなかった日本人としての正直な感想を言えば、いささか違和感を感じる部分も少なくない。
例えば、アメリカ空軍がアルカイダ掃討のため、カブールに大規模な空爆を行った際、巻き添えで犠牲者となった一般市民がいたこと。

これについて本作は「痛ましいことだった」としながらも、「9.11で大勢の犠牲者を出したのだから仕方がない」と、何の痛痒も感じていないかのようなアメリカ市民の証言を紹介している。
このあたり、現在のガザの飢餓や惨状について無関心なイスラエル国民と似たり寄ったりのように思えなくもない。

国際問題にもなったグアンタナモ空軍基地での拷問にも、一応触れてはいるものの、「強制尋問」という言葉にすり替えられ、ビンラディンの潜伏先を割り出すのに有効だった、と軍関係者が証言している。
この先、またテロ事件が起こったら、CIAはあの残忍な水攻めや睡眠剥奪で外国人を絞り上げるのだろうか。

ビンラディンを射殺した兵士は、自分の妻や子供の一人一人に手書きの「遺書」を残し、死を覚悟してアジトに突入したのだと語っている。
その表情や言葉からは、目の前の、恐らく丸腰だった人間を問答無用で撃ち殺した行為に対する自省や悔悟は微塵も感じられなかった。

しかし、それが「対テロ戦争」の実相であり、優秀とされる兵士の実像なのだろう。
大変貴重で興味深いドキュメンタリーではあるが、ハリウッド映画とは違い、喉の奥に呑み下せない引っかかりを残す作品だった。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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