『ジャイアンツ』(NHK-BS)😉

Giant
201分 1956年 アメリカ=ワーナー・ブラザース
ジェームス・ディーン生誕90周年記念リバイバル上映:2021年1月

NHK〈BSシネマ〉で大晦日に放送された古き佳き時代のハリウッド超大作にして家族劇の秀作。
個人的には10代のころ、2週に渡って地上波テレビの洋画劇場で初めて吹替版を鑑賞し、その後広島市のスカラ座(閉館)でリバイバル公開された際にノーカット字幕版を観た記憶がある。

当時も60歳を過ぎたいまでも変わらないのは、一介の雇われカウボーイから石油成金へとのし上がるジェット・リンク役ジェームズ・ディーンのパートが一番面白い、ということ。
それに比べると、本作の主役、テキサス一の大牧場主ビック・ベネディクト(ロック・ハドソン)、その妻レズリー(エリザベス・テイラー)の夫婦物語は、演ずるふたりの演技も雰囲気もあまりに古式ゆかしいスター然としているため、どうにも感情移入しづらい。

しかし、ビックとレズリーが夫婦ゲンカで戦わせる議論の中身は、このトシになって見直すとなかなか興味深いものがある。
東部のメリーランドからビックの元に嫁ぐお嬢様育ちのレズリーは、まだよく知り合ってもいないうちから、テキサスが先住民やメキシコ人から簒奪した州であることを鋭く指摘。

ビック自慢の大牧場にやってくると、使用人のメキシコ人たちが不当に差別されていることに憤りを覚え、夫の反対を押し切り、メキシコ人医師グエラ(モーリス・ジャラ)を使用人の集落に派遣する。
ビックとレズリーの長男ジョーディ(デニス・ホッパー)は、大牧場を継ぐことを拒否して医師を志し、グエラ医師の娘フアナ(エルザ・カルデナス)と結婚。

フアナは石油成金リンクが創業した高級ホテルの美容室で屈辱的な差別を受け、激怒した夫ジョーディはホテルの完成披露パーティー会場でディーンに詰め寄るが、衆人環視の中で逆に殴り倒されてしまう。
ここで息子のために父ビックが立ち上がり、リンクに対決を迫るくだりから、主人公としてのキャラクターに深みが生まれ、観ているこちらも大いに力が入ってくる。

とはいえ、本作の一番の見どころがリンク=ディーンのパートであることに変わりはない。
彼がレズリーの足跡から初めて石油を掘り当て、全身に石油を浴びて見る見る真っ黒になっていくシーンは、ディーンだからこそ青春映画的名場面たり得ている。

リンクがパーティーで醜態をさらし、無人の会場で飲んだくれ、「俺は本当はレズリーが好きだったんだ」と告白するセリフはディーンのアドリブだったという。
また、撮影中の同録では声が十分に聴き取れず、撮影終了から1週間後にディーンが急逝してしまったため、東宝のゴジラ映画でも有名なニック・アダムズがアフレコで吹き替えたそうだ。

そういう裏話がいまごろになってわかっても、やはりディーンの演技は素晴らしく、今日でもなお特別な輝きを放っている。
ちなみに、彼の演じたジェット・リンクは当時実在した石油成金をモデルにしたそうで、本作のリンクと同様、人生の晩年はほとんどの財産を失って転落の一途を辿ったという。

オススメ度B。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る