『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(WOWOW)🤗😱

She Said
129分 2022年 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ
日本劇場公開:2023年 配給:東宝東和

2017年、ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ疑惑を暴き、#Me Too 運動のきっかけとなったニューヨーク・タイムズの調査報道を映画化した作品。
原作は元ネタの記事を執筆したふたりの記者ミーガン・トゥーイー、ジョディ・カンターによるルポルタージュである。

セクハラや性差別という題材が今日的なら、この事件を告発した記者がふたりとも女性だった、というのもいかにも現代的。
監督のマリア・シュラーバーをはじめ、脚本のレベッカ・レンキェビッチ、撮影のナターシャ・ブライエなど、主要スタッフを女性で固めているところには、#Me Too 運動の盛り上がりを観客動員につなげようというプロパガンダ的な意図も感じる。

ただし、作品の構成と筋立てはむしろオーソードクス、というよりいっそ古典的で、ワシントン・ポストのボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインがウォーターゲート事件を暴いた過程を描いた『大統領の陰謀』(1976年)にそっくり。
事件の主犯だったニクソン大統領が最後まで画面に登場しなかったのと同じように、この『SHE SAID』でもワインスタインは声と後ろ姿を示すにとどめている。

『大統領の陰謀』で歴史的スクープをものにしたウッドワード(ロバート・レッドフォード)、バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)はとにかくカッコよかった。
この『SHE SAID』のミーガン(キャリー・マリガン)とジョディ(ゾーイ・カザン)も、現代の女性ジャーナリストならではのカッコよさを感じさせる(ように描かれている)。

そうした仕事面の描写だけでなく、ミーガンとジョディ、取材される側の女性たちも家庭を持っており、平和な私生活を維持するべきか、覚悟を固めて告発に踏み切るべきか、女性ならではの葛藤もきめ細かく描かれていることに感動させられた。
また、ワインスタインのセクハラだけでなく、被害者側からの告発が握り潰されてしまう法的システムの根本的な欠陥を手厳しく批判しているところも大いに評価したい。

しかし、肝心の主犯ワインスタインの人物像にまったく触れられていないことには、抜き難い疑問と違和感も感じる。
実際、ワインスタインは刑務所に収監中の現在、一度は認めた過去のセクハラを全面的に否認しているそうだ。

ちなみに、ニクソン大統領はパラノイア的性向の持ち主で、強迫神経症だったという説もあり、ウォーターゲート事件は『大統領の陰謀』で描かれたような共和党ぐるみのスパイ事件などではなく、ニクソンが自らの妄想を膨らませ過ぎ、現実と区別がつかなくなった挙げ句の愚挙だった、という考察もなされている。
本作では、ワインスタインが執拗にグウィネス・パルトローの関与を疑っていたことが描かれているが、恐らくはまだ様々な制約があるのか、実際に何があったのかには触れられていない。

なお、パルトローはワインスタインが製作し、ワインスタインの会社ミラマックスが配給した『恋に落ちたシェイクスピア』(1998年)でアカデミー主演女優賞を受賞。
この映画は作品賞も受賞しており、プロデューサーとしてオスカー像を授与されたワインスタインの所業とは別に、大変優れた作品だったことだけは付記しておきたい。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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