『あゝ決戦航空隊』(新文芸坐&セルDVD)🤗

199分 1974年 東映
@新文芸坐:2015年8月16日

特攻隊の創始者・大西瀧治郎中将は、本作のメインライターを務めた名脚本家・笠原和夫が取材した様々な侠客や軍人の中で、唯一「破滅の美学を実践した日本人」だと称揚している人物である。
その大西を演じているのは、特攻隊の生き残りを標榜していたことで有名な鶴田浩二(実際は特攻隊に参加した事実はないというのが定説となっている)。

そうした予備知識があったことから、十数年来興味のあった作品で、新文芸坐の終戦特集初日、1日限定で上映されたきょう(2015年8月16日)、さっそく観に行ってきた。
DVD化されていることは知っていたが、これほどの大作はやはり映画館で鑑賞しなければと考えて。

映画を観る限り、大西は最初から特攻を積極的に提唱していたわけではなかったらしい。
戦局が悪化していた折から、体当たり攻撃を導入しようと周囲の軍人に働きかけられ、苦悩の末に下した決断であることが伺える。

フィリピンに赴任させられるとき、大西は米内海軍大臣(池辺良)に向かって、体当たり攻撃を選択せざるを得なくなるかもしれない、その場合は自分がすべての責任を負う、と宣言している。
恐らく、このときすでに、敗戦を迎えたら自らも死ぬ覚悟を、ある程度は固めていたのだろう。

もっとも、フィリピンで空挺部隊の玉井浅一副長(梅宮辰夫)に特攻を打診された若い空軍兵たちが、我も我もと賛同するくだりは、いま見るとかなりの違和感を覚える。
最初の特攻隊長に命じられた関行男中佐(北大路欣也)も、実際には映画のようにその場で承諾せず、逆に激しく抵抗したそうだ。

大西の懐刀として暗躍するのが児玉誉士夫で、なんと小林旭がカッコよく演じている。
戦後、様々な軍需物資を隠匿していた児玉機関も、実は大西がつくらせたものだった。

このあたりも映画では詳しく描かれておらず、大西と児玉の関係もヤクザ映画風に美化され過ぎているきらいがある。
捷一号作戦における特攻が上々と言っていい戦果を挙げたことから、この体当たり攻撃は全軍で義務化されるのだが、成功率はかえって急激に落ち込んでゆく。

その成り行きまで自分の責任として背負い込んだ大西は、ポツダム宣言受諾を前に生き残っている男子国民を総動員した「2000万人特攻隊」を提言するまでに先鋭化していった。
この終盤は鶴田の見せ場で、熱演に次ぐ熱演、見ているこちらも大いに力が入る。

しかし、目を潤ませては唇を噛む芝居は見応えがある半面、そもそも常軌を逸した作戦を唱えているだけに、観ているうちにだんだん辟易させられるのも確か。
終戦後、徹底抗戦を唱えて錯乱状態に陥り、精神病院に収容される小園安名大佐(菅原文太)の挿話も、菅原が『仁義なき戦い』(1973年)のイメージが強かったころだけに、大変な熱演がヤクザっぽく見えていまひとつ感銘を与えない。

ただし、大西をはじめ、児玉、小園と、主たる実在の登場人物が堂々と「天皇陛下こそ特攻すべきだ」と唱えるシーンは、映画史の上でもっと評価されてもよい名場面だろう。
笠原和夫が大西に最も共感を覚え、評価しているのも、この首尾一貫した潔さにあるのではないかと思う。

戦時の思想としても、国家の責任論として捉えても、天皇こそ玉砕すべし、政府と軍部の成人男子全員も陛下に倣うべし、という主張には筋が通っており、合理的と言ってもいい。
大西たちは皇太子の責任にまでは論及しておらず、たとえ天皇が死んでもポツダム宣言によって日本の国体は護持されるのだから。

ラストは鶴田が割腹して果てる場面で、おびただしい量の血糊が流れる。
これは山下耕作の趣味なのだろうが、大西の死に様は現実にもこのようなものであった、と笠原は著書に書いている。

ところで、この映画、非常にプリントの状態が悪く、肝心のところで何度も場面が飛び、フィルムが切れて上映が中断した。
菅原のセリフから天皇批判のくだりがなくなり、鶴田の切腹が2度も途切れては迫力も何もあったものではない。

旧サイト:2010年08月16日(月)Pick-up記事を再録、修正

発売:東映ビデオ 価格:4500円=税別 
再発売:ぐるぐる王国 期間限定再発売価格:2331円
※2010年のデータです

8月16日、新文芸坐において一日限定で上映された際には気がつかなかったのだが、当日は主人公・大西瀧治郎(鶴田浩二)が自刃した命日でもあった。
あの日、劇場に駆けつけたご高齢の観客の中には、特攻隊や大西中将と何らかの関わりがあった方もいたのかもしれない。

ところが、肝心のプリントの状態が非常に悪く、あちこちの部分が飛んでいるように見受けられた。
そこで、改めてDVDを購入し、再度鑑賞して、新文芸坐では観られなかった主な重要場面を以下に記す。

①大西がフィリピンで「わが声価は、棺を覆うて定まらず。百年ののち、知己またなからん」とつぶやく。

②終戦後に小園大佐(菅原文太)が「天皇陛下、あなたは過ちを犯されましたぞ!」と叫ぶ。

③児玉誉士夫(小林旭)が玉音放送の流れるラジオを切り、「こんなもん聞くな! 糞食らえだ!」と吐き捨てる。

④ラストシーンの直前、1974年当時まだ残っていた、大西が割腹自殺した渋谷区南平台の官舎の映像。

新文芸坐で上映されたプリントでは以上の4カ所が丸々失われていたので、最後の大西の自刃があまりに唐突に見えたのだ。
その切腹の場面自体、何度も途切れていた。

しかし、それでも、こういう映画はやはり劇場で見たほうがいい、と思います。
劇場ではいささか辟易させられたほどの鶴田の熱演が、DVDになると妙に冷静に見えてしまい、いまひとつ胸に迫ってこなかったから。

旧サイト:2010年08月28日(土)Pick-up記事を再録、修正

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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