『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』李玟萱・著/台湾芒草心慈善協会・企画😁😭😢😳🤔🤓☺️

白水社 翻訳:橋本恭子 定価2300円=税別 
印刷:2021年6月15日 発行:同年7月10日

年明けの1月3日以降、渋谷区の公式ホームページが国際的ハッカー集団アノニマスのサイバー攻撃を受け、アクセスしにくい状態に陥る、という事件が起こった。
アノニマスはTwitterで自分たちの犯行であることを表明し、「区がホームレスのシェルターを閉鎖するので(区の)ウェブサイトを閉鎖する」と動機についてコメントしている。

アノニマスの言う「ホームレスのシェルター」とは、以前から路上生活者が大勢集まっていた美竹公園のこと。
渋谷区は昨年、この公園と周辺地区の再開発を進めるため、仮囲いの設置工事を行ってホームレスが入れないようにしており、それに対する報復としてアノニマスはサイバー攻撃を仕掛けたらしい。

この事態について、渋谷区では路上生活者に代替住居のアパートを提供することをはじめ、様々な福祉的支援を続けていく姿勢を示している。
しかし、アノニマスとは別に、ホームレスの支援団体からは、この渋谷区の対策に対して「実情に即していない」と批判の声もあがっており、根深い問題があることをうかがわせる。

そうした今日の日本の事態を先取りしているノンフィクションが、台湾のホームレスの実態とソーシャルワーカーの活動を詳細に描いた本書である。
前半に10人の様々なタイプのホームレスが登場し、ところどころに彼らを助けるソーシャルワーカーが現れて、後半ではそのソーシャルワーカー5人の人物像が綴られている。

人はなぜ家を失い、路上で生活するようになるのか、その理由も経緯も文字通り十人十色。
ホームレスは「不潔で臭い」「酒や薬に溺れている」「泥棒や強盗のような犯罪が走る者が多い」というのが一般的なイメージだろうが、それはごく一部であり、本書で描かれるホームレスは自分たちなりに日々を精一杯生きている。

元軍人のホームレスは清潔好きで、たとえ熱い風呂に入れなくても、洗面所の冷たい水で体を洗い、「俺は軍隊にいたから冬に水を浴びても平気なんだ」と胸を張る。
会社の上司に裏切られて投獄された過去を持つ男性は、60歳を過ぎて自らの苦境を省みず、自分より若いホームレスの援助に心血を注いでいる。

そんなホームレスを支援するソーシャルワーカーの生き様もまた尋常一様ではない。
とりわけ、夫が入院、息子が自殺未遂、孫までが大怪我を負い、鬱状態に陥りながらもなおホームレスの支援活動を続ける台北病院のボランティア梅英(メイイン)姉さんの凄絶な日々が印象に残る。

ソーシャルワーカーがこれだけの苦労をしてもなお、行政の支援は不十分で、巻末には台湾政府の政策の問題点がまとめられているとともに、ホームレスにあてがわれる住居やトイレ、人間看板などの労働に勤しむ姿の写真が収録されている。
現時点でのホームレス問題を総括しながら、優れたヒューマン・ドキュメントでもある本書は、カバーにある通り民間自立支援団体・台湾芒草心慈善協会が企画・立案したもの。

著者の李玟萱はポップミュージックの作詞家が本業で、ホームレスに寄り添うように取材し、読者に対しては率直に、優しく語りかけるようなニュアンスが、訳文を通しても伝わってくる。
台湾の実情を伝える本である半面、どこの国でも起こり得る、あるいはすでに起こっている普遍的な問題提起をしていることも強調しておきたい。

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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