『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』(WOWOW)😉

115分 2021年 東宝

1998年の長野冬季オリンピックで、スキージャンプ・ラージヒル団体の金メダル獲得を陰で支えたテストジャンパーたちの実話を映画化した作品。
ところどころに映画的創作が施されているが、ほぼ事実に忠実に作られている。

主人公は1994年リレハンメル五輪のジャンプ団体で銀メダリストとなった西方仁也(田中圭)。
リレハンメルでは彼の大ジャンプで金メダルをほぼ確実にしていながら、エースの原田雅彦(濱津隆之)の失速でまさかの2位に終わってしまい、生まれ育った長野で開催される4年後のオリンピックで雪辱を期していた。

しかし、練習量の多さが仇となって腰痛を発症し、長野五輪開幕1カ月前に日本代表からの落選が決定。
テストジャンパー(実際の正式名称は「試験飛躍員」)として毎日ジャンプ台を滑り、各国代表選手のために積雪を固めるという裏方仕事に回される。

かつての銀メダリスト西方もここでは単なる一スタッフで、宿舎も選手村ではなく民宿、しかも6畳一間に3人が寝泊まりする相部屋暮らしを強いられる。
あまりに屈辱的な扱いに、西方の胸に巣食う感情的わだかまりが膨らんで、スタッフルームへやってきた原田に「俺はテストジャンパーなんかどうでもいいと思ってるんだ!」とぶちまける、というあたりは映画的創作も含まれているだろうが、当時の西方の本音ではあるだろう。

いよいよ原田がジャンプ団体の本番で飛ぼうとしていた直前、西方は胸の内で「落ちろ!」とつぶやく。
すると、4年前のリレハンメルと同様、本当に失速してしまい、日本は前半戦で4位に後退した上、後半戦に入る前に吹雪が強まって競技が中断。

このまま後半戦が行われなくなったら、前半戦の成績だけで順位が確定し、日本はメダルを逃してしまう。
競技続行を主張する日本に対し、ジュリー(審判委員)はテストジャンパー25人全員が無事滑降し、しかも十分な距離を飛べることを証明すれば、競技を続行してもよいと回答する。

過酷な使命を受けたテストジャンパーの中には聴覚障害者の高橋竜二(山田裕貴)、唯一の女性で当時高校2年生だった小林(実際の当時の旧姓は葛西、現在は吉泉)賀子(小坂菜緒)もいた。
ひとりひとりが慎重にジャンプを続けていた最中、小林が滑る直前になって、ジュリーは突然、スタートゲートを上げて選手と同じ位置から滑るように指示する、という描写の数々はいかにもフィクションめいているように感じられるが、すべて実話に基づいている。

しかし、飯塚健監督の演出はメリハリと緊迫感に乏しく、終始テレビの青春ドラマか情報番組の再現ドラマのような絵作りの中でストーリーが進行するため、クライマックスに至ってもいまひとつ盛り上がらない。
これは、ジュリーを構成する4カ国のうち、日本以外の3カ国が前半戦終了時点で上位3位を占めていたオーストリア、ドイツ、ノルウェーだった、という重要な事実に触れていないことにも原因がある。

西方役の田中圭は彼のベストのひとつに数えていい好演で、聴覚障害者の高橋に扮した山田裕貴も本人にそっくりの台詞回しでいい味を出している。
一方、小林賀子役の小坂菜緒(日向坂46)はビジュアルがいかにもアイドルっぽく、とても田舎町で父親に逆らってジャンプ競技に打ち込んでいるような女の子には見えない。

と、いろいろな意味でもったいない作品だが、スポーツ・ノンフィクションとして十分楽しめることは確か。
なお、このテストジャンパーたちのドラマはNHKのドキュメンタリー番組『スポーツ大陸/大逆転スペシャル 絆でつかんだ栄光 長野五輪スキージャンプ団体』(2009年)でも映像化されている。

オススメ度B。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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