『さすらいのカウボーイ』(NHK-BSP)🤗

The Hired Hand
93分 1971年 アメリカ=ユニバーサル・スタジオ 
日本公開:1972年 配給:CIC(シネマ・インターナショナルコーポレーション)

脚本・主演・製作を手がけた『イージー・ライダー』(1968年)でアメリカン・ニューシネマの旗手となったピーター・フォンダが、その3年後に監督・主演した西部劇の名作。
僕は初めて観たのだが、この2年後に『地獄の逃避行』(1973年)で監督デビューしたテレンス・マリックは、ひょっとしたら本作から多大な影響を受けていたのではないだろうか。

カリフォルニアを目指して西部を旅している3人のカウボーイが魚を釣り、川辺でささやかな食事を取る場面から、この映画は始まる。
主人公ハリー・コリングス(フォンダ)は妻ハンナ(ヴェルナ・ブルーム)を置き去りにし、牧場を営む家を離れてから7年、一緒に旅しているアーチ・ハリス(ウォーレン・オーツ)、弟分のダン・グリフェン(ロバート・プラット)に、そろそろ家に帰るつもりだと打ち明ける。

その途中、デル・ノルテという村で酒盛りをしていた最中、ダンがマクヴェイ(セヴァーン・ダーデン)という村の顔役に撃ち殺されてしまう。
酔っ払ったダンがマクヴェイの妻を襲ったからだ、というマクヴェイの言い分は嘘っぱちで、ダンの馬を奪うために殺したことは明らかだったが、ハリーとアーチは復讐を果たせず、ダンを埋葬して村を去るしかなかった。

7年ぶりに家に帰ってきたハリーに、またここで暮らしたいのなら働いてほしいと妻ハンナは告げ、ハリーとアーチを使用人の納屋に住まわせる。
ふたりが懸命に働き、新生活を軌道に乗せたころ、ハリーとアーチは町のバーで、ハンナが使用人を雇っては夜の相手をさせていたという噂を聞く。

噂が事実かどうかと詰め寄るハリーに、ハンナは悪びれもせずにうなずき、ハリーが出て行ってからどんな暮らしをしていたか、淡々と打ち明けた。
事実を受け入れたハリーをハンナはベッドに誘い、ふたりがようやくかつての夫婦の絆を取り戻したことを確かめると、アーチは牧場から出て行った。

ここから急展開するクライマックス、新たな生活の始まりを予感させるエンディングまで、監督フォンダは終始静かなタッチで絵画のような場面をつないでゆく。
ニューシネマが生んだ名匠ヴィルモス・スィグモンドの映像、ボブ・ディランとのセッションで有名なフォークシンガー、ブルース・ラングホーンの音楽も素晴らしく、観終わってからもしばらくはこちらの脳裡から消えなかった。

本作に表現されている詩情はニューシネマというジャンルの枠を超えて、当時の映画芸術のひとつの頂点を示しているように思う。
あくまで勝手な想像ではあるが、本作の映像美に、のちにマリックが撮った『地獄の逃避行』や『天国の日々』(1978年)との類似を感じるのは僕だけではないはずだ。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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