『マツダとカープ 松田ファミリーの100年史』安西巧😁😢😳🤔🤓

発行:新潮社 新潮新書 定価860円=税別
初版:2022年2月20日

僕のように広島出身のカープファンで、球団の歴史についてはある程度詳しく知っていても、オーナー一族である松田家のこととなると、知っているようで知らない、という人は結構多いのではないだろうか。
これは現オーナーの松田元が滅多にマスコミの取材を受けず、地元メディアにおいても一種のアンタッチャブルな存在になっている現状にも起因している。

そうした中、日本経済新聞の広島支局長を務めた著者・安西巧は、松田家と親密な関係を築き、元の数少ない単独インタビュー記事や自伝連載(日経新聞『私の履歴書』)を執筆した人物。
本書は、その安西が数年前、「松田家の歴史を知りたくても、そんな文献は広島の本屋にもないですね」と元に持ちかけたのがきっかけになったという。

面白いのはやはり、一代で東洋工業(現在のマツダ)の礎を築き上げた重次郎、その重次郎の後を継いだ長男の二代目・恒次の生涯と、彼ら親子の複雑な関係と、そこから生じた確執の内幕だろう。
特に、軍の圧力や身内の裏切りによって自分の会社を追われ、多額の負債を背負い、一時はブラジル移民となって新事業を立ち上げようとした重次郎のタフでエネルギッシュな行動力には圧倒される。

技術屋気質の強い人間だった重次郎に引き換え、長男の恒次は逆に商品の営業力や人間関係の構築力に優れており、22歳の時に病気で左足を付け根から失いながら、ロータリーエンジンによって東洋工業を世界的自動車メーカーへと発展させた。
一度は結婚を機に重次郎から勘当を言い渡され、のちに呼び戻されるも、またいったん袂を分かつくだりが、この親子の意地っ張りな遺伝子を象徴しているようで興味深い。

恒次はカープのオーナーとして、のちに阪急ブレーブスの監督となった上田利治をスカウトしており、僕も生前の上田さんから恒次の為人を伺ったことがある。
上田さんは関西大学を優秀な成績で卒業していたことから、恒次に「カープで3年ほど頑張ったら東洋工業の正社員として雇うから」と口説かれたという。

ところが、3年後にいざ口約束を守らなければならないとなると、恒次は上田を自邸に招き、「私は最初から君をカープの指導者になれる人物と見込んで採ったんや」と前言撤回。
さらに「これからは企業も人、野球も人や。君も指導者になるからには、ウチ(東洋工業)で人材育成のための研修を受けたらええ」と言われたことが、のちの名将の誕生につながった。

著者にはそんな恒次とカープの関わりを掘り下げた次回作を期待したい。
中身はタイトルと少々異なり、カープの話はあまり出てこないが、それでもカープファンなら読んでおくべき一冊である。

😁😢😳🤔🤓

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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