『アナザーラウンド』(WOWOW)🤗

Druk/Another Round
117分 2020年 デンマーク、オランダ、スウェーデン
日本公開:2021年 配給:クロックワークス

何の予備知識もなく、マッツ・ミケルセン主演だから面白いだろうと期待して観始めたら、オープニングでいきなりビールを一気飲みしては駆けっこをする高校生たちが出てきて、少々面食らった。
このイベントで盛り上がった10代の若者たち、電車内でも大騒ぎを繰り広げ、注意しにやってきた車掌に手錠をかけてトンズラしてしまう。

画面は変わって、この高校生たちが通っている学校の教室。
主人公の歴史の教師マーティン(マッツ・ミケルセン)が授業に入る前、くだんの生徒に1週間の飲酒量を聞いたら、ほとんど毎日、グラスでビールかワインを合計50~55杯、などというとんでもない答えが返ってくる。

デンマークでは未成年でも普通に酒が飲めるのかと驚いたが、観終わってからネットで調べたら、実際にこの国では飲酒の年齢制限を定めた法律がないのだそうだ。
その上、ビール、ワインなどアルコール度数16.5%以下なら16歳から購入可能、18歳ですべての酒を買えるようになり、バーやレストランでの飲酒もできるという。

ついでに指摘すると、高校に制服はなく、教師もTシャツにパーカーで、無精髭も伸ばしたまま。
…という日本では考えられない〝飲んべえ国家〟の日常が、日本で観ている僕にもごく自然に受け入れられるように描かれている(あくまで個人的な受け止め方ですが)ところから、それこそ美味いワインを飲まされるように作品世界へと引き込まれていく。

教師仲間ダニエル(マグナス・ミラン)の40歳の誕生祝いにマーティンら3人の同僚が集まって、「血中アルコール濃度を0.05%に保てば仕事も私生活もうまくいく」というノルウェーの哲学者の主張を実践しよう、という話が持ち上がる場面から本題へ突入。
マーティンは最初、この誕生日パーティーでも「車を運転して帰るから」とひとりだけ水を飲んでいるような堅物だったのだが、「帰るころにはアルコールも抜けてるさ」という仲間に押されて極上のウォッカに口をつける。

何とまあ乱暴な、と思ったものの、これがデンマークの酒飲みのノリなんでしょうね。
こうしてほろ酔い状態で教鞭を執るようになったマーティンたちは、当然のことながら徐々に飲み過ぎるようになり、血中アルコール濃度も0.05%を超え、様々なトラブルを引き起こす。

マーティンたちが窮地に陥るくだりでは、やはりアルコール依存症をテーマにして高く評価されたアメリカ映画『クレイジー・ハート』(2009年)、『フライト』(2012年)を彷彿とさせる場面もないではない。
しかし、そうしたアメリカ的価値観や道徳観とは異なり、最終的に酒や依存症を一方的な悪と決めつけていないところに、デンマーク映画ならではのオリジナリティが感じられる。

主演のミケルセンは「デンマークの至宝」と称される俳優で、監督・脚本を手がけたトマス・ヴィンターベアも国際的に高く評価されているデンマーク人。
日本では本作のアルコール観に違和感を覚える向きもあるかもしれないが、コロナ禍で何かと酒が悪者にされている折、「やっぱり酒は飲みたいときが美味いときだよな」と思わせてくれる映画である。

あ、僕は仕事中には飲みませんけどね。
あくまでも一観客として共感はできる、というだけです、念のため。

オススメ度A。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

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11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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