『ザ・キング』(WOWOW)🤗

더킹/The King
134分 2017年 韓国 日本公開:2018年 配給:ツイン

韓国で新大統領が誕生するたび、多くの前大統領(金大中、金泳三を除く)の在任中の不正や悪事が暴かれ、訴追されて刑務所に収監されたり(全斗煥、盧泰愚、李明博、朴槿恵)、自殺に追い込まれたり(盧武鉉)してきたのは何故なのだろう。
何か構造的な問題があるはずだと漠然と思っていたのだが、この映画を観て初めて合点がいったような気がした(もちろん、すべてを鵜呑みにしたわけではないが)。

一連の前大統領に対する告発劇の仕掛人は新大統領ではなく、検察局戦略部の検事たちだった、というのが本作のキモ。
彼らは大統領選の最中から新たに政権を握りそうな候補に擦り寄って、現職の対立候補が在任中に犯した犯罪やスキャンダルの情報を流していた、というのだ。

本作で描かれるのは、国際社会でそうした政権交代の闇が問題視されていた全斗煥時代(任期1980〜1988年)から李明博時代(同2008〜2013年)まで。
この時代に一介の不良高校生から検事を目指し、権力闘争に翻弄される主人公の半生を通じて、いま韓国に求められる正義とは何かを問うメッセージ性の強い作品となっている。

全斗煥大統領時代の1980年代、全羅南道の港町・木浦(モッポ)市でチンピラの父親に育てられた主人公パク・テス(チョ・インソン)はろくに勉強をせず、毎日ケンカに明け暮れる高校生活を送っていた。
が、ある日、自分の父親が検事に散々足蹴にされながら、縋りついて許しを乞うている光景を見て、検事こそ社会で〝真の力〟を持つ人間なのだと思い込む。

それから一念発起して受験勉強に打ち込み、もともと頭がよかったせいか、ソウル大学に進学し、アカだと疑われないよう全羅南道ではなくソウル出身だと出自を誤魔化して司法試験に合格。
さっそく検事を息子にしたい富裕層から縁談が持ち込まれ、令嬢ながらも男勝りのサンヒ(キム・アジュン)とお見合いをして結婚する。

これで自分の人生も一変するかと思いきや、最初の赴任地は地方の驪州(ヨジュ)市で、ひき逃げや飲酒運転など地味で小さな事件を1カ月に30件以上も担当させられ、休日返上で働かなければならない。
連日の激務に「検事の99%はこうして人生を終え、真の権力を掴むのは残り1%だけなのだ」とテスは愚痴る。

そうした中、地元高校の体育教師ソン・ベクホ(デ・ホワン)が教え子に3回の強姦、5回の強制わいせつ行為を働きながら、僅か500万ウォンの示談金で済まされていた事件を見つけ、テスは義憤に駆られて再度訴追しようと決断。
そこへ突然、ソウルの中央地方検察庁の戦略部に勤めるヤン・ドンチョル先輩(ペ・ソンウ)がやってきて、自ら車を運転し、テスを戦略部の広大な資料室に連れて行く。

そこに保管された政財界、芸能界のスキャンダルの資料を見せたヤン先輩は、「こういうネタはキムチのように食べごろになるまで熟成させることが大事だ。そうしておいていざというときに役立てるんだ」とテスに説く。
テスが収監したソンは元国会議員の息子で、戦略部部長ハン・ガンシク(チョン・ウソン)と昵懇の間柄だから、村の事件から手を引け、そうすればテスをハン部長に推薦してやるとヤン先輩に持ちかけられ、テスは逡巡しながらも承諾。

会員制秘密クラブで初めて引き合わされたハン部長は、いきなりテスの横っ面を引っぱたいて、この国で検事として生きるにはどうするべきか、大声で捲し立てる。
「プライドも理想も捨てろ! 権力に擦り寄れ! 歴史に学べ! この国でいい思いをしているのは親日派だ! 独立派は年金で食っていくしかないんだ!」という怒声が響き渡るこのシーンは非常に強烈で、チョン・ウソンもかなりの熱演。

こういう確信犯的悪徳検事に取り込まれたテスは、ハン部長やヤン先輩の走狗となり、不正を働いて私腹を肥やしながら出世の階段を駆け上がっていく。
そんなテスに高校時代からの悪友、全羅南道の反社会勢力・木浦派のボスとなったチェ・ドゥイル(リュ・ジュンヨル)がすり寄り、テスが手を出せない〝汚れ仕事〟を一手に引き受けて大暴れ。

ドゥイルがのし上がっていくこのくだりでは、時の盧泰愚政権の後ろ盾があればこそだったと説明されるが、フィクションとはいえ、よくこんな描写が許されたものだと驚かされた。
木浦派と敵対する野犬派の親分が、拉致した人間を野犬に食い殺させる場面も、スプラッター的演出こそ控えているが、何ともどぎつい生々しさを感じさせる。

しかし、ハン部長とヤン先輩にとって、テスとドゥイルはしょせん、使い捨てにする鉄砲玉に過ぎなかった。
というシナリオはなかなか捻りが効いていて、演出も軽妙になったり深刻になったり、ストーリーが二転三転したあげく、意外な結末へ雪崩れ込んでゆく展開は実に見事。

深刻なストーリー、えぐい描写が多いにもかかわらず、形容し難いカタルシスを感じさせるエンディングも素晴らしい。
監督、オリジナル脚本を手がけたハン・ジェリムはまだ40代半ばで、日本でももっと注目されていい才能の持ち主だと思う。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

127『光州5・18』(2007年/韓)C
126『シルミド SILMIDO』(2003年/韓)B
125『KCIA 南山の部長たち』(2020年/韓)B
124『3時10分、決断のとき』(2007年/米)B
123『アルビノ・アリゲーター』(1997年/米)C
122『悪い種子』(1956年/米)C
121『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年/英、仏)C
120『ノマドランド』(2021年/米)A
119『復讐無頼 狼たちの荒野』(1968年/伊、西)B※
118『スペシャリスト』(1969年/伊、仏)C
117『父 パードレ・パドローネ』(1977年/伊)B※
116『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/西)A
115『雨の訪問者』(1970年/伊、仏)A※
114『カサンドラ・クロス』(1976年/西独、伊、英)B※
113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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