『MINAMATA−ミナマタ−』😊

Minamata
115分 2020年 アメリカ、イギリス=ユナイテッド・アーティスツ・リリーシング
日本公開:2021年 配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム

不勉強にして、水俣病は社会常識として知っていても、その惨状を世界に伝えた国際的写真家W・ユージン・スミスの存在と、本作のタイトルでもある写真集『MINAMATA』のことはほとんど知らなかった。
そのユージンに関心を抱いていたジョニー・デップが自ら製作に乗り出し、ユージンを熱演した本作は、現在も闘病を続ける患者がいる水俣病の問題に切り込んだ実話ダネである。

1971年、水俣へ行く前のユージン(ジョニデ)は写真への情熱を失って酒に溺れ、多額の借金を背負い、アパートの家賃すら払えず、ふたりの子供にも見放されていた。
そこへ富士フィルムでCMの仕事をしていたアイリーン・美緒子(美波)が訪ねてきて、日本の水俣病の実態をあなたのカメラで世界中に伝えてほしい、と口説く。

ユージンは太平洋戦争の沖縄戦取材で重傷を負っていたことから、一度はこの日本行きのオファーを拒絶するが、アイリーンが残していった水俣病患者の写真を見て翻意。
一度は喧嘩別れしていた古巣〈ライフ〉誌の編集部に足を運び、猛反対するボブ・ヘイズ編集長(ビル・ナイ)を説得して日本の水俣市に向かう。

ユージンは当初、アイリーンとともにマツムラ夫婦(浅野忠信、岩瀬晶子)の家に滞在し、水俣病になった娘アキコの写真を撮影させてほしいと頼むが、世間体を考えた彼らに拒絶される。
ウイスキーを飲みながら海辺の町を歩き、住民たちを撮ろうとカメラを向けても顔を背けられるため、すっかり嫌気が刺したユージンは、自分のカメラを水俣病の障害を持つ少年(青木柚)にあげてしまう。

怒ったアイリーンに説得され、少年にカメラを返してもらったユージンは、気を取り直してふたたび水俣病の入院患者やチッソを提訴している患者団体の集会の撮影を始める。
そうした中、ユージンの活動に危機感を抱いたチッソのノジマ社長(國村隼)は、様々な妨害工作を企てていた。

ジョニデは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年〜)とは打って変わった演技派ぶりを披露し、大変な情熱家でありながら極端な気分屋で、いつも周りの人間たちを翻弄していたユージンの人物像を的確に表現している。
実生活では当時ユージンと結婚していたアイリーン役の美波も、チャーミングなキャラクターで暗くなりがちな内容に明るさを与えており、これが英語圏映画初出演とは思えないほど英語と日本語を巧みに使い分けているのにも感心させられた。

患者団体のリーダーを演じている真田広之をはじめ、概ね及第点に達している日本の俳優の中で最も傑出した存在感を見せているのは、水俣病の少年役の青木だろう。
とくに、一度はチッソ側からの圧力に屈しかけたユージンの元にやってきて、ユージン愛用のミノルタでユージン自身の顔を撮影し、心がささくれ立っていたこの写真家に癒しをもたらす場面がいい。

また、このくだりでは、挫折しかけたユージンに国際電話で喝を入れるヘイズ編集長のセリフが強烈。
1971年当時、売れ行き不振に陥っていた〈ライフ〉は誌面の67%が広告に占められ、編集長自身も部員の人望をなくしていたところで、この苦境を脱するにはユージンが水俣病患者を撮影した写真、即ち「本物の写真」を載せるしかない、というのだ。

このように、人間ドラマとしても社会派映画としてもよくできてはいるのだが、チッソがユージンに大がかりな圧力を加えるくだりにはフィクションも多いようで、日本人としては額面通りには受け取れない、と感動を制御したくなる部分も目につく。
ちなみに、ジョニデもメッセージを出した製作者から日本への後援依頼に対し、熊本県は承諾したが、現在も多くの水俣病患者と家族が暮らす水俣市は「製作意図が不明」であるとして固辞したそうだ。

採点は80点です。

TOHOシネマズ新宿・日比谷・日本橋・六本木、渋谷シネクイント、などで上映中

2021劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

4『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年/英、米)75点
3『ファーザー』(2021年/英、仏)90点
2『ゴジラvsコング』(2021年/米)70点
1『SNS 少女たちの10日間』(2020年/捷克)80点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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