『カサンドラ・クロス』(NHK-BS1)😉

The Cassandra Crossing
129分 1976年 西ドイツ、イタリア、イギリス

1976年12月、世界に先駆けて日本の正月映画として公開され、この時期の興行の本命だった『キングコング』(1976年)を向こうに回し、当時としては大ヒットとなる約15億円の興収を稼ぎ出したオールスターキャストのパニック超大作。
ぼくも劇場公開当時は広島市のOS東劇(閉館)へ見に行き、手に汗握ってハラハラしながら2回も見た記憶がある。

そういう映画を大人になってから再見し、いかにデタラメでムチャクチャで、虚仮威しだらけの〝ボム〟(”bomb”=いわゆる「サイテー映画」)だったか、改めて認識させられることは少なくない。
この『カサンドラ・クロス』も、見ようによってはそんなボムの一例と言える。

開巻、スウェーデン人のテロリスト3人が救急車で急患を運んできたかのように装い、スイスのジュネーブにあるWHO(世界保健機関、映画ではIHO=国際保健機関)に侵入する。
…って、WHOは病院なのか?

IDの確認もされなければ受付すらないWHOに駆け込んだテロリストたちは、爆弾を仕掛けようとして警備員たちと銃撃戦になり、3人中2人が撃ち殺される。
…WHOの警備、こんなに杜撰でいいのか?

ひとり生き残ったテロリストは病原菌の研究室に入り、撃ち合いの最中にアメリカ軍が秘密裏に開発、培養していた病原菌入りの液体を浴びてしまった。
この男は窓ガラスを割って脱出、ジュネーブの駅まで足で走って(!)行き、秘かにパリ経由でストックホルムへ向かう大陸横断列車に乗り込む。

ここで事態の収拾に乗り出すのが、米軍のスティーヴン・マッケンジー大佐(バート・ランカスター)。
WHO内部のオペレーション・センターみたいなフロアで、列車のルートを示す大きな電光掲示板、列車内部から送られてくる動画をモニターで見ながら指示を飛ばすのだが、なんで国際保健機関に、しかもまともな警備態勢すら敷かれていないビルの中に、こんな軍事用の施設があるの? 

この列車に乗っていたのが世界的に有名な脳神経外科医ジョナサン・チェンバレン(リチャード・ハリス)、その元妻でベストセラー作家のジェニファー(ソフィア・ローレン)。
WHOから列車に直接電話をかけてきたマッケンジーから、テロリストの持つ病原菌が肺ペストのウイルスと知らされ、車内で感染した乗客の診察を始める。

このあと、テロリストは肺炎のような症状を起こして死んでしまうから、致死率の高さは推して知るべし。
感染した乗客もすぐ息も絶え絶えになる…にもかかわらず、マスクも手袋もつけないで患者たちを診ているチェンバレンとジェニファーには、なぜかまったく感染しない…。

マッケンジー曰く、「列車の乗客1000人が感染している恐れがある。いったん全員を隔離せざるを得ない」。
日本の新幹線は16両が満員で1300人だが、この列車は明らかに6~7両しかなく、しかも1等はコンパートメント(個室)になっており、その後ろの車両は1等客専用の食堂車だから、どう見ても200人以上は乗っていないような気がするのだが…。

しかもこの列車、ジュネーブ駅(実際はバーゼルSBB駅)を出たときは先頭のEL(電気機関車)がパンタグラフを上げていたのに、ドイツの田園地帯の非電化地区に入ってもパンタグラフを下げたまま、延々と走り続けている。
映画の前半、マッケンジーの差し向けた米軍のヘリコプターが列車を追跡し、病原菌に感染した犬を車両から網カゴで引っ張り上げるシーンがあるので、架線のないところを走らせる〝必要〟があったのか…。

この場面に「唖然とした」という鉄道マニアのサイトによると、このあたりはどうやら列車を後ろからDL(ディーゼル機関車)で押しながら撮影したらしい。
そんな面倒臭い撮影をする前に、「こんなの現実にはあり得ねーよ! こんなシーン撮ったら笑われるよ!」と、製作者のカルロ・ポンティ(ソフィア・ローレンの旦那)、これが事実上の監督デビュー作だったジョージ・パン・コスマトスに意見するスタッフはいなかったのか。

列車はマッケンジーの判断によって目的地をストックホルムからポーランドのヤーノフ(架空の都市)に変更され、ニュールンベルグに停められる。
深夜、かつてナチス・ドイツの戦犯を裁く裁判が行われたニュールンベルグに列車が入ってくると、照明の中に浮かび上がる真っ白な防護服と酸素マスクを身につけ、自動小銃を抱えた米軍の兵隊(字幕では警護隊)たち。

非常に印象的なこの場面は、ナチス・ドイツがユダヤ人たちを貨物列車に乗せて強制収容所へ運んだ史実を嫌でも彷彿とさせずにはおかない。
しかも、列車には本当のユダヤ人で、今日のハリウッドの隆盛を築いたアクターズ・スタジオの総帥、演技指導者のレジェンドとして知られるリー・ストラスバーグが年老いた詐欺師役として乗っていた。

白装束の軍団によって列車の窓とドアが密閉されると、そのストラスバーグが恐怖に怯えた表情でつぶやく。
「また、あのカサンドラ・クロッシング(鉄橋)を通るのか。嫌だ、もうカサンドラには行きたくない」

ストラスバーグ演じるカプランは第2次世界大戦中、カサンドラ鉄橋を通る列車によって強制収容所に運ばれていた。
その鉄橋は1948年に封鎖されて以来、約30年も使われておらず、いつ崩落するかもわからない恐れがあることから、周辺の住民も退去しているのだ、とカプランはジョナサンとジェニファーに打ち明ける。

マッケンジーら米軍の真の狙いは、肺ペストに汚染された乗客たちを、鉄橋の崩落事故に見せかけ、列車もろともこの世から葬り去ることにあった。
このあたり、冷徹に陰謀を押し進めるランカスター、恐怖に怯えるストラスバーグの迫真の演技はさすがに一級品で、この映画がのちの世代に語り継がれ、いまもブルーレイ化されているのはこのくだりがあるからだ、と言っても過言ではない。 

しかし、それほど危険な鉄橋なら当然、運転士や車掌も知っているはずで、マッケンジーとの間に何らかのやり取りが行われる場面がなければおかしい。
その上、ライオネル・スタンダー演じる車掌は、鉄道会社から行く先を変更するという連絡を受けておらず、ニュールンベルグで連結されたDLにいるはずの運転士に至っては、その存在すら一度も映されていない。

本職は登山家、裏稼業で麻薬の密輸をやっているナバロ・サンティニ(マーティン・シーン)は列車の屋根伝いに機関車へ行こうとするが、屋根も米軍の警護隊が見張っていると知ってあえなく断念。
ここでも、その屋根にいるはずの米軍兵士の姿がワンカットも映っておらず、ジョナサンに「屋根にもいるのか?」と確認されると、ナバロが「自分で行って見てみろ」と言い返すだけで済ませている。

それならばと、ナバロは窓に嵌められたブラインドを伝って機関車へ行こうとするのだが、自動小銃を携えている連中を相手にするのに、丸腰で行ってどうするのか。
また、このくだりを外側から撮影した場面では、ブロンドの髪をポニーテールに束ねた男性がスタントマンを務めており、シーン本人と違うことがモロバレ。

ジョナサンは食堂車の床を爆破し、その下にある連結器を外して2等車より後ろを切り離そうとする。
ジェニファーは「1等車より前の乗客は見殺しにするの?」と迫るが、「やれることをやるしかない。1等車だけなら橋を通過できるかもしれないだろう」と反論。

このあたりは主役の夫婦がしっかり議論するところをきちんと描写すべきなのに、ジェニファーがあっさり引き下がってしまうのだから肩透かし。
おまけに、カプランが犠牲になって食堂車の爆破に成功すると、車掌のスタンダーではなく、列車には素人のはずのジョナサンがいとも簡単に連結器を外している。

終盤、ボロボロのカサンドラ鉄橋と驀進する列車が交互に映され、ジェリー・ゴールドスミスによる名曲が奏でられる中、いよいよ手に汗握るクライマックスへ突入する。
…しかし、このオンボロ鉄橋の描写にもダメ押しのようなミスがあって、30年も使われていなかったという割に、レールの表面があんまり、というより、全然錆び付いていない。

ちなみに、このカサンドラ鉄橋として撮影されているのは、フランスの片田舎に実在するガラビ鉄橋。
実際にもつくられてから約120年が経過し、相当に老朽化しており、地元のローカル線ですら徐行するほどだそうで、危ない場所だという雰囲気だけは伝わってくるが…。

ツッコミどころはたくさんあるけれど、それでも、現代の大陸横断列車をユダヤ人を連行した貨物列車に見立て、風光明媚な欧州の渓谷にかかる鉄橋から墜落させる、というアイデアとイメージだけはいま見ても素晴らしい。
プロデューサーのポンティは恐らく、このアイデアを映像化するため、脚本家のトム・マンキーウィッツ(名監督として知られたジョセフ・L・マンキーウィッツの息子)に無理矢理ストーリーを捻り出させたのではないか、という気さえする。

そういう意味で、『カサンドラ・クロス』が映画にしか表現できないある種の夢(本作のような悪夢も含む)を具現化していることは確かだ。
というわけで、ぼくはやっぱりこの映画が嫌いになれない、というより、いまでも好きなんですよ。

オススメ度B。 

旧サイト:2017年12月17日(日)Pick-up記事を再録、修正。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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