『ダイヤルMを廻せ!』(NHK-BSP)🤗

Dial M for Murder
105分 1954年 アメリカ=ワーナー・ブラザーズ

アルフレッド・ヒッチコックにとって初のカラー作品であるとともに、唯一の3D映画として製作された傑作。
のちに『暗くなるまで待って』(1967年)の原作で有名になったフレデリック・ノットの同題戯曲が原作で、ヒッチコックは舞台劇としての特長を生かし、場面をほとんどトニー・ウェンデス(レイ・ミランド)とマーゴ(グレース・ケリー)夫妻が住むアパートの居間に限定している。

オープニングはこの居間で元プロテニスプレーヤーの夫トニーと朝食を取りながら、マーゴがクイーン・メリー号のロンドン帰港を報じた新聞記事を読んでいる場面。
続いて、この船で帰国した有名な推理作家マーク・ハリディ(ロバート・カミングス)がマーゴと居間でキスしているシーンに移り、ふたりが不倫の関係にあること、トニーとマークが友人同士であること、さらにマークがマーゴに送ったラブレターを、マーゴが手紙を入れたハンドバッグごと紛失してしまったことなどが語られる。

それからしばらくのち、マーゴの元に手紙の中身をバラされたくなかったら50ポンド寄越せ、という脅迫状が届き、マーゴは指定された郵便局に金を送ったが、手紙は返送されてこなかった。
と、極めて深刻な打ち明け話をしている最中、マーゴの夫トニーが帰ってきて、今夜は3人で観劇に行く予定だったのに、仕事の都合で行けなくなった、2人で楽しんできてくれ、とマーゴとマークと送り出す。

ひとり居間に残ったトニーはC・A・スワン(アンソニー・ドーソン)という人物に電話をかけ、きょう自動車修理工場で売りに出ていたあなたのアメリカ車を買いたい、うちで交渉しないかと持ちかける。
さっそくやってきたスワンはトニーのケンブリッジ大学の先輩で、トニーは妻のマーゴが友人のマークと不倫の関係を続けていることを告白し、マークがマーゴに送った手紙を渡して読ませる。

この手紙は序盤、マーゴが紛失して脅迫された、と同じ居間でマークに話していた手紙だ。
トニーは、自分はスワンのケンブリッジ大学の後輩で、あなたが偽名を使って女性を騙したり、家賃を踏み倒したり、最近も刑務所から出てきたばかりだったりと、学生時代からの悪業をすべて知っている、とスワンに詰め寄る。

さらに、過去を暴露されたくなかったら私の代わりにマーゴを殺してほしい、とスワンに持ちかける。
怖気づいたスワンが断って出て行こうとすると、トニーは落ち着き払った態度でスワンがマーゴを脅迫している状況をでっち上げていることを説明。

先ほど手渡したマークからマーゴへの手紙にも、あなたの指紋がついている、動かぬ証拠も残っているのですよ、と追い打ちをかける。
ブランデーグラスを揺らせながらジワジワと相手を追い詰めていくミランドの演技は、ソフィスティケートされていながらも重厚感に満ちており、このあたりで観ているこちらも完全に引き込まれてしまう。

仕方なく承諾したスワンに、トニーはかねてから練りに練り上げた完全犯罪の詳細な手口を説明し、翌日の晩、いよいよ計画の実行に取りかかる。
殺人の動機となった不倫が明かされるのも、その殺人のための布石が打たれるのも、さらにその殺人が行われるのも、すべて同じ、いかにも英国の富裕層が暮らしていそうなアンティークな調度品で飾られたリビングルーム、という設定と段取りが、これほどドンピシャリとハマっているミステリーも珍しい。

映画の後半、巧みな話術でトニーを追い詰めていくハバート警部(ジョン・ウィリアムス)の話術も大変面白く、このキャラクターはのちにピーター・フォークが演じた『刑事コロンボ』(NBC/1968〜1978年)の原型になったとも言われる。
終盤ではこのハバートが主役となり、ウェンデス夫妻の居間で大団円を迎えるころには、まさに完璧に作られた舞台劇を堪能したような気分にさせられた。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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