『監禁面接』ピエール・ルメートル😁

Cadres Noirs
490ページ 文藝春秋(文春文庫) 翻訳:橘明美 第1刷:2021年1月10日 定価880円=税別
単行本発行:文藝春秋 2018年8月 原書発行:2010年

パリに妻とふたりで暮らす主人公アラン・デランブルは、かつて一流企業の人事部長だったが、リストラに遭ってから4年目の57歳。
職安に紹介された医薬品を箱詰めする単純労働のアルバイトをしていた職場で、同僚と諍いを起こし、暴力を振るったという濡れ衣を着せられ、またクビになった上に会社から訴えられてしまう。

最近のフランスの景気、雇用情勢、再就職のシステムが詳しく説明され、アランが二進も三進も行かない状態にあることがよくわかったところで、彼が応募していた中途採用試験を請け負ったコンサルティング会社から「あなたは書類審査に合格しました」という知らせが届く。
藁をもすがる思いで受けた筆記試験もパスし、あとは最終面接さえクリアすれば、パリのオフィスに晴れて上級管理職として迎えられるのだ。

ところが、その最終面接のやり方が、思いもよらぬ奇妙で過激な内容だった。
重役会議が開かれている最中、テロリストが彼らを監禁するから、そのテロリストに代わって重役たちを尋問し、リストラするべき人物を選べ、というのである。

テロリストによる監禁はもちろんシナリオのある演出だが、重役たちにはそのことは知らされず、彼らは本当にテロリストに拘束されたと思い込んでいる。
最終面接に臨む受験者は重役たちに顔を晒さず、別室からマイクを使って尋問するから、これがまさか採用試験の一環であるとはわからない。

ふつうの感覚なら、この時点で中途採用試験にはのっぴきならない裏があると察知し、試験を辞退してもよさそうなものだが、経済的に追い詰められているデランブルはそこまで頭が回らない。
最終面接で自分がクビを通告するべき重役は誰か、あらかじめ調べておこうと、娘を騙して金を借り、私立探偵を雇って重役の素性と評価を調べようとする。

ところが、その過程で、この最終面接自体がヤラセであり、合格する受験者はすでに決まっていることが明らかになる。
しかし、下調べに大金を投じたアランとしては、もはや後戻りはできなかった。

これ以上は書けないのだが、最終面接からエンディングまでは一気呵成で、ほとんど一日で読み終えてしまった。
冷静に考えれば荒唐無稽な筋立てと言わざるを得ず、クライマックスのそこここで御都合主義が目につくものの、ルメートルのストーリー・テリングの上手さに乗せられ、ページを繰る手が止まらない。

また、今回は大ヒットした〈カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ〉と違い、フランスの経済や失業率の動向など、リアルな社会状況を踏まえ、カッコ悪い失業者を主人公に据えているところも興味深い。
アランと妻や娘たちのやり取りもユーモアたっぷりで、何だかハリウッド製サスペンス映画のようだな、と思ったら、すでに全6話のテレビドラマ化され、ネットフリックスから配信されているそうだ。

ただし、カミーユ・シリーズの2作『悲しみのイレーヌ』(2006年)、『その女アレックス』(2011年)のような構成による大どんでん返しを期待するとアテがはずれる。
これから読む方は、ああいう作品とは異なる種類のミステリーだと思ってお読みください。

😁

2021読書目録
面白かった😁 感動した😭 泣けた😢 笑った🤣 驚いた😳 癒された😌 怖かった😱 考えさせられた🤔 腹が立った😠 ほっこりした☺️ しんどかった😖 勉強になった🤓 ガッカリした😞

18『バグダードのフランケンシュタイン』アフマド・サアダーウィー著、柳谷あゆみ訳(2020年/集英社)😁😳🤓🤔
17『悔いなきわが映画人生』岡田茂(2001年/財界研究所)🤔😞
16『映画界のドン 岡田茂の活動屋人生』文化通信社編著(2012年/ヤマハミュージックメディア)😁😳🤓🤔
15『波乱万丈の映画人生 岡田茂自伝』岡田茂(2004年/角川書店)😁😳🤓
14『戦前昭和の猟奇事件』小池新(2021年/文藝春秋)😁😳😱🤔🤓
13『喰うか喰われるか 私の山口組体験』溝口敦(2021年/講談社)😁😳😱🤔🤓
12『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カップ、アル・スタンプ著、内村祐之訳(1971年/ベースボール・マガジン社)😁😳🤣🤔🤓
11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
Scroll to top